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キリンとサントリーの合併破断について思うこと

配信日:2010年

キリンとサントリーの合併破談。ビッグ・カップルの結婚といわれ食品業界の再編を加速させるものと言われていましたが、結局は持ち株比率をめぐって合意に至らず、みなさんがご存知の結果となりました。

実は去年の7月にキリン・サントリー合併の話が出たとき、その合併は競争の観点から「ほとんど暴力」に見えました。私にとって食品業界ナンバーワンとナンバー2の合併は将来的な市場独占の兆候に思えたのです。

当時、合併の目的は「世界市場での競争力を高める」にあると報道されていましたが、両者とも国際市場で強いブランドを持っているわけではないので、これは「表向きの建前」だと理解していました。弱い者同士が肩を寄せ合っても強者にはなれないからです。

むしろ私の目には「明らかに日本市場での実質的な独占」を狙ったものに見えました。関心の優先順位はあくまでも国内市場です。合併の売上は2位のアサヒビール(1兆4500億円)に対して3兆8000億円と2倍以上になります。このような状況でみなさんならどのようなマーケティングを展開するでしょうか?

私は「徹底的な低価格戦略」を打つことを思いつきました。あたかもマクドナルドが100円バーガーでロッテリア、その他のハンバーガーチェーンを締め出したように、まずは低価格を打ち出して市場を席巻することを考えます。

まず新ジャンル(ビールテイスト飲料)の価格を90円台まで下げます。それによって2位のアサヒビールを市場から締め出すことを考えます。同様のことを他の酒類、飲料でも行い、例えばコカコーラを市場から締め出す。カルピス(味の素)や伊藤園を市場から締め出すことを画策します。

そのようなことを行っていくと、体力のない企業はキリン・サントリーの傘下に入ることを望むかもしれません。もしその企業が良いブランドを持っているのであれば、それを傘下に入れることは大歓迎です。(ブランド育成のコストが劇的に下がる)

そのように締め出した後で(一度、焼け野原にした後で)、いよいよ自分たちのビジネスを思うようにやります。需要は依然、あるわけですし市場でのプレイヤーは実質、自分たちしかいないので価格決定権を持つことができます。好きなものを作って(あるいは作らずにおいて)、好きな価格をつければよい。

例えばビールなら定価の一番搾りとプレミアム・モルツだけあれば良いということになります。新ジャンルものどごしと金麦で十分。発泡酒はそもそも必要ない。これはちょっと極端な想像ですが、消費者利益が置き去りにされる温床を生み出す原因になりますし、談合体質も強化されるに違いありません。これが「ほとんど暴力的」と考えた理由です。

考えてみると、普遍的な戦略シナリオというのは2つしかないように思います。

ひとつは業界を牛耳ってしまうような規模ですべてをコントロールしようとするシナリオ。究極の戦略1です。つまりインフラを押さえてしまう戦略と言ってよく、オセロゲームの四つ角を取ってしまう戦略です。

例えばソフトバンクのやろうとしていることはこのインフラ戦略です。孫正義さん自身、ソフトバンクのビジネスを「水道や電気と同様、社会インフラを整備すること」と言っていますし、事実、「通信事業」というのは社会インフラに他なりません。(これがソフトバンクがボーダフォンを買収した理由です。)

広告業界はもっと分かりやすく、電通の戦略とは「インフラ戦略」です。電通は例えばウェブ広告では出遅れた観がありますが、そのような新しい業界に率先して参入しなくても新興企業が業界を作ってくれるのを待つ方が得なのです。事実、ウェブ広告の業界では既に淘汰が始まっていますが、電通のやったことはそこの勝ち組を買収すること。どんなに新しい広告業態でも「労せずして買い取る」のが電通のやり方で、実は博報堂も同じ戦略を採っています。

市場競争で淘汰が始まるタイミング(成熟期)でM&Aや合併によって根こそぎ取ってしまい、その後に自分たちの流儀でビジネスを展開するのがインフラを押さえてしまった企業の典型的な方法です。今回のキリン・サントリーもこれを狙ったのだと思います。

このようなインフラ戦略がある一方、「そのインフラのなかで独自性を作り出し泳ぎ切るシナリオ」もあります。これがもう一つの戦略シナリオ。典型的なのはアントレプレナーの個人事業主のものです。アイディアの斬新さや高付加価値型のサービス・商品でインフラ型企業の裏をかく(戦略的ジレンマを誘発する)のが主なスタイルであり、こちらは究極的な戦略2といえます。同時にそのようにしてビジネスをユニークで価値のあるものとして育てた後にインフラ型の企業に売却するのもこちらの戦略的シナリオとして見られます。ご存知のようにアメリカの起業家が好むやり方です。

究極的にはこの2つの方法が長期的な戦略シナリオなのではないかと考えています。

今回のキリン・サントリーの合併も本当ならば、インフラ型戦略を遂行するつもりだったのでしょう。しかし最終的には破談となりました。企業体質、株式公開・非公開のスタイルの違い、持ち株比率のせめぎ合いなど最初から「無理な結婚」だったのでしょう。

私はさきほどの「暴力的」見地から合併は破談になってよかったと思いますが、今回の破談が最終的にはビジネスの仕組みや戦略以前に「人間の欲」や「見栄・意地」が大きな理由になっていることも面白いと思いました。人間臭い話でもあり本質的な学びがあるように思いますので、この話はまた機会があったらします。

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