大学のブランディング

配信日:2011年

10月に息子の学校の学園祭に行って来ました。
まだ中学一年ですが中高大一貫の学校のためでしょうか、入学して半年ほどなのに随分と大人びたように思います。

去年、幾つかの志望校を選ぶために学園祭を見て回ったのが懐かしく思い出されます。学校を偏差値やネームバリューで選ぶのは致し方ないとしても、本当に子供にとって良い学校かどうかは別です。

私は「生徒を見れば学校の校風や質もわかる」と思っています。
自由な校風と言っても、果たしてどの程度自由なのか?それは好ましい自由なのか?子供にとって相性の良い自由なのか?その学校の生徒を見れば、大体見当がつくものです。

学園祭を見るのは、生徒や学校の「素」が見えるからです。よく入学希望者の父兄のためにオープン・スクール(授業参観のようなもの)がありますが、そのようなもので判断するのは難しいと思います。学校側も生徒も構えるからです。

実際に参加してみるとわかりますが、最初から好ましいイメージを持っている学校のオープン・スクールは好ましく思うものですし、そうでない学校のものは「やっぱりこの程度だ」と思うだけの話。要は父兄側も「買う理由」「買わない理由」を構えた状態で見つけるだけのことで、子供にとっての学校選びという点では無駄足になることがほとんどでした。やはり一番いいのは学園祭を見ることです。

中学校ではないですが、最近は大学の入学者獲得競争も激しさを増しているようですね。
現在、国公私立を合わせて約780校も大学があり、A~Eランクが3割、残りの7割がFランクで、各大学が差別化を模索しています。

2010年の統計では大学進学率は54.4パーセント、2人に1人は大学または短大に進学しています。進学率は上がり、大学も増加と反比例に18歳人口が減少しているので誰もが学力に関係なく望めば、Fランクの大学は入学できる時代となりました。

そのFランクの大学で、受験生獲得争いが行なわれている結果、夏、冬になると電車の中吊り、新聞広告が一斉に行なわれています。しかし効果は今ひとつのようです。

ある大学の広報担当者の方がおっしゃっていました。「特別なオンリーワンの大学になるためにどこの大学も改革や広報に力を入れていますが、イワシの大群からブリに変化する大学は少ないです」「本学は、何年かに一度、ブランド力の新改革を実施しますがかなりの金額が消費されるだけで成果が出ておりません。ブランド力調査の結果は、20年前と変化がありません」

大学のブランディングは企業でのブランディングよりも難しいのだろうと思います。その大きな理由は「学長(トップ)の任期が決まっていて短期間で方針が変わる可能性が高いこと」と「そもそも教員の自由自治という概念が強くて経営という意識が弱いこと」などがあるでしょう。マーケティング的には「学生に対するサービス提供」という概念が弱いのかもしれません。

本当は、広告をやって入学志願者を集めるという発想そのものにも問題があると思います。
広告での入学希望者募集とは全く別のアプローチで成功しているのが、秋田にある国際教養大学(AIU)。グローバル時代に対応したカリキュラムで授業はすべて英語で行います。広告など一切行なっていませんが入学希望者は後を絶ちません。いまどきの受験生は時代の流れを感じ取りながら20年前よりも真剣に学校選びをしているのがわかります。

以前、このメルマガのなかで「新規客の集客ばかりに熱心で既存顧客のサービスをないがしろにする企業に明るい未来はない」という話をしましたが、まさしくそういうことではないかと思います。

受験生は必ずしも偏差値の高い学校ばかりを選ぶ(行ける)わけではなく自らの学力に相応の学校に行くのだとすれば、やはりそのレンジのなかでの最高の学校に行きたいと思うのではないでしょうか?きっと私が学園祭を見て回ったように、受験生も学園祭を「偵察」してその学校の雰囲気を感じているに違いありません。

そこで学生がイマイチ楽しそうじゃないとすると、それは学校そのものが魅力的ではないことを意味するのでしょう。

知名度や入り易さよりも「授業の質はどうか」「教授は最新の情報を与えているか」「校舎や施設は快適か」「グローバル時代に対応しているか」「なにより真剣に勉強できるか」・・・が大切です。そのような点でブランディングに成功したのが明治大学や立命館大学です。つまり、大学のブランディングは広告戦略よりも学生へのサービス改善を優先順位に置くほうが近道です。

これは当たり前のことのように聞こえますが、出来ている学校は少ないと思われます。その理由について先ほどの広報担当者の方が教えて下さいました。

「教員一人一人と会話をすると、今のままではいけないという意識も高く大変熱意があるのです。しかし、大学の教員は、一国一城の主の集合体のようなもの。強い徒弟制度、独自の研究の追求、言論思想の自由等あります。まず体制批判の不屈な精神があり会社のようにトップダウンが受け入れられない特性があります。教員それぞれが経営者のようなものです。それらを1つにまとめる手段として、合議制、輪番制、権利の平等がありますが、学部が多くある大きな大学は何かを尖らせることが難しいといえます。」

熱意はあってもまとまる術(すべ)を持ちにくいということでしょうか。本当の改革はきっとこの部分なのでしょうね。

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