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ハイエンドと製品の普遍性

配信日:2011年

いかなるカテゴリーにもハイエンドは存在します。それはカテゴリーの「山頂」のようなものです。その山頂を目指して企業は「あるルート」を打ち出しています。しかし往々にして、そのルートでは山頂にたどり着かない場合があります。小さな頂き(いただき)にしかたどり着けないルートです。これが小さな必要性や小さな欲求しか満たさないコンセプトです。

マーケターはどういうわけか、ハイエンドよりも小さな特定ニーズに着目しがちです。そして調査の目的も、そのような特定ニーズ、特に「未充足ニーズ」を明らかにすることになることが多いものです。これはこれで新たなハイエンドを見つける努力をしているようにも思えるのですが、そもそも現代のように成熟した消費社会においては未充足ニーズなどというものはあまり期待出来ないのではないかと思います。ほとんどの市場で消費者のニーズはほぼ満たされていると思われるのです。すると未充足ニーズは必然的に小さなニーズ、つまりハイエンドとは別のものになるようです。

また成熟した消費社会ではマーケターの思考が複雑化していることも指摘できるでしょう。典型的なのは「ペルソナ」です。これは消費者をある特定の人物に見立てて、その特徴や価値観などを事細かく明確にする消費者分析の手法です。それによって消費者のニーズを具体的に明確化しようとします。しかしそこで出てくるニーズは皮肉にもハイエンド以外のものが出てくる傾向にあります。きっと消費者像を具体化し過ぎる弊害です。そうなるとマーケターは何人ものペルソナ像を描き出し、それを「セグメンテーション1」「セグメンテーション2」・・・として説明しようとします。複雑さに輪がかかる。私はペルソナによって、それが有効なマーケティング・プランに落とされた事例をまだ見たことがありません。

そもそも調査や手法以前に、マーケターの思考が複雑化していることも指摘できるでしょう。「既存の製品で消費者がほぼ満足しているとしたら、一体、この新製品は何のために出すのか?」そう考え始めるとマーケターは「ありもしないニーズ」がさも存在するのではないかという妄想に取り憑かれ、これを「仮説」と称するようになります。

実際に私もそのような妄想に取り憑かれていたこともあります。しかしハイエンドはもっと目の前にあるものだというのが、現在の私の理解です。あたかも探し物は机の上にあるのにそれに気づかずにいるような状況です。「未充足ニーズなどない」と割りきって、ハイエンドを狙ったほうが良いように思うのですが如何でしょうか。

一方で、ハイエンドを満たすには「普遍的な製品属性」も必要です。どのようなカテゴリーの中で、どのような新しい付加価値を付けようと、そのカテゴリーに属する以上は必ず備えなければならない普遍的な製品属性は存在します。

ハイブリッド・カーの市場で、ホンダ・インサイトはトヨタ・プリウスに2年遅れて発売されました。1999年のことです。プリウス以上に低燃費を実現したハイブリッド・カーでしたが、売上はプリウスに遠く及びませんでした。その最大の理由は「2人乗り」「2ドア」だったことにあります。自動車購入を検討する消費者にとって低燃費以上にそれが気にかかったに違いない。「5人乗り」「4ドア」は自家用車の普遍的な属性だったと思われます。

初代インサイトは何度かのマイナーチャンジを繰り返しましたが「2人乗り」「2ドア」はそのままでした。結局、2006年に販売を終了した時には、国内での販売は2300台のみでした。2009年に2代目のインサイトが発売になった。今度は「5人乗り」「4ドア」での再登場です。売れ行きはまずまずのようですね。

スマートフォンも「電話」「メール」「インターネット」という、それまでの携帯電話が備えている普遍的な属性があったから売れたと思います。これが電話もメールも出来ず、ただアプリが充実していたとしたら消費者は見向きもしなかったでしょう。携帯電話の新カテゴリーである以上、消費者にとって携帯電話の基本的な機能を備えていることは最重要課題だったに違いありません。

サッポロビールの「麦とホップ」はまさにビールの普遍的な属性を表現したネーミングです。「ビールと間違うほどの美味しさ」という広告コピーも秀逸だと思います。第三のビールなのに、ビールのハイエンドそのものを突いているからです。ただ単に価格が安いだけの第三のビールは多いですが、ハイエンドに立脚したブランドは少ないと思います。

ハイブリッド・カーであろうと陸上を効率的に移動したいというハイエンドに立脚していることはあまり違いありません。実はカテゴリーの外見もそんなに変わらない。ハンドルがあって、4輪で、エンジンを積んでいることは同じです。しかしエネルギー供給の考え方は進化しています。一方で、どれほど考え方が進化していても、ハンドル自体が無かったり、4輪でなかったりしたら、そんなには売れないでしょう。これは進化ではなく別の何かに変わることを意味していると思われます。時には退化かもしれません。究極的に意味のある変化とは進化のことかもしれません。

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