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「戦略家欲求」「貢献欲求」「向上欲求」

配信日:2011年

ブランド・マネージャー経験者なら誰でも実感することが一つあります。それはブランド戦略における権限をほとんど持ち合わせていないということです。これは有名なマーケティング・カンパニーであろうと概ね事情は同じで、ブランド・マネージャーだからといってブランドに関する決定権・権限を必ずしも持っているわけではありません。

権限を持っていないブランド・マネージャーは、本人がどれほど戦略的なトンガリを持ちたくても周囲がそれを許さないことが多いものです。周囲というのは、たいていは営業本部長や宣伝部長、開発部長など、幾つかの職種別組織のトップであることが多く、ブランドに関する権限のほとんどはこの人たちが握っていることが多いのです。

営業本部長はブランドの営業政策に関する実質的な権限を、広告部長や開発部長は、やはりそれぞれの職務領域のなかでの当該ブランドに関する権限を持っています。ではブランド・マネージャーはどのような権限を持つかというと、ブランド戦略を企画し彼らに対して「提言」する程度の権限しか持たされていません。

公平に言ってブランド・マネージャーの発言力とは、例えば営業政策に関しては営業本部長よりも小さいのが現実です。

そしてブランド・マネージャーがいままで試したこともない革新的なアイディアを持ち込むと、たいていは周囲が危険視します。あるいは経験の少ないブランド・マネージャーの「他愛もない思い付き」として切り捨てられることも往々にしてあります。各部門のトップはよかれと思ってそうしているのですが、時には良い結果にならないこともあります。

インターネットによる通販が台頭し始めた頃のこと。量販店で化粧品を売る、あるクライアントのブランド・マネージャーはウェブ販売に参入することを提案。しかし量販店、卸売業者と昔からの付き合いを重視した営業本部長はこのアイディアを否定しました。ご存知のようにウェブ市場の台頭は時代のトレンドでした。このクライアントさんのウェブ・ビジネスは4年も遅れることになりました。

逆にこのような事例もあります。インターネットでにきび用高級石けんを販売していた別のクライアントさんでは、このような専門的でニッチな製品もインターネットから街のドラッグ・ストアやバラエティ・ストアにまで消費者の買い回り場所が拡大している現状を鑑みて「低価格にきび石けん」をそれらのチャネルに向けて開発・導入。同時にインターネットでは販売しないことを提案しました。当初は「何故、インターネットでそれを売らないのか」「リアル店舗では営業マンのカバレッジがない」などの反対がありましたが、社長の決定により実行に移すことになりました。結果は大成功。いまではインターネットでの売上よりもリアル店舗での売上のほうが上回るようになりました。世の中のトレンドがウェブに向かっているからと言って、必ずしもその逆の戦略が間違いではないことを示すとともに、新しい考え方を実行してみることの価値を示す事例です。

一方で、権限がないからといって仕事にならないわけではありません。特にブランド・マネージャーに任命される人材には20代後半から30代の有能な中堅・若手が選ばれることが多いのですが、このような人たちの行動パターンを見ていると権限の有無そのものは大きな問題ではなく、実質的な影響力を社内に対してどの程度示せるかに関心は向くようです。

それはまるで「泥沼のなかをでんぐり返りしながら前進していく」ようです。自分のプランを営業部に持ち込んでは「お前は現場が分かっていない」と叩かれ、開発部に持ち込んでは「こんなの作れない」とあっさりいわれ、宣伝部に持ち込んでは「広告表現をコロコロ変えるべきではない」と説教を受け・・・しかし、そういう泥沼の状況を少しずつ、あたかもでんぐり返りをしながら泥まみれになって進むように、確実に前進させていこうという意志に溢れています。

どうして彼らはそうなのか?
それは得意先や消費者を驚かせたいという「戦略家欲求」、自分の会社に貢献したいという「貢献欲求」、もっと経験を積み勉強して自分自身のキャリアをさらに素晴らしいものにしたいという「向上欲求」があるからです。彼らはそういうブランド・マネージャー業務を愛していますし、楽しんでいます。それは自分自身を表現する手段でもあるのです。ブランド・マネージャーとは基本的に、自分に厳しくありながらも楽観的な性格でなければ勤まるものではありません。

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