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想定外のリーダーシップ

配信日:2011年

4月下旬にソニーの顧客情報流出が起こって1ヶ月になります。まだ解決を見ないのは、これも「これまで経験したことのない問題」だからだと思います。そういう点では福島原発のメルトダウンと同様の問題です。

先日、経営コンサルタントの佐々木繁範さんと会話をする機会を得ました。佐々木さんは元ソニーの経営戦略スタッフで、特筆すべきは盛田・出井両氏のもとで「スピーチ・ライティング」の仕事をされていたことです。

スピーチ・ライティング。正式には「エキュゼクティブ・スピーチ・ライティング」と言って、経営トップが社内・社外でのスピーチをする原稿を書く仕事です。佐々木さんの仕事は盛田さんや出井さんが国際会議やマスコミ記者会見などでスピーチをする際、ソニーの企業理念を下敷きにしながら、世界に伝えたいことを分かりやすく、興味深く伝える原稿を書くことでした。

日本ではあまり馴染みのない仕事ですが、アメリカでは公認の職業でして、例えばオバマ大統領の就任演説を書いたジョン・ファヴロー氏は有名です。また最近では「英国王のスピーチ」という映画で、ヨーク公の吃り(どもり)を治す言語聴覚士、ライオネル・ローグも広い意味ではスピーチ指導を行う職業といえます。

今回のソニーの情報流出事件について佐々木さんが言うには「かつてのソニーとは違う、"らしくない"対応」とのこと。

「現在のソニーは私がいた頃のソニーとは違います。盛田さんや出井さんなら現在のような対応はしないでしょう。ソニーの資産は、映画・音楽・ゲームというコンテンツとハードウェア。その二つをつないで相乗効果を可能にするのがオンライン事業。そのオンライン・セキュリティーの信憑性が問われる事態が生じたわけですから、ソニーにとっては、企業生命をも揺るがす一大事が起きてしまったのです。少なくとも出井さんの時代には、これほどの危機は経験していません。ハッカーがソニーを狙い撃ちにして、全世界的にサイバー攻撃を仕掛けてくるというまさしく想定外の事態です。この事態にどう対処するかは、簡単なことではありません。そうした時、ソニーにとって今、何が最も大切か、原点に立ち返って考えることが重要です。被害を受けた顧客への保証に加えて、これからの利用への安心をいかに確保するかということが、顧客の関心事だと思います。そして、会社の命運がかかるこの問題の対処には、トップ・ダウンのリーダーシップが重要です。もし自分がトップのスピーチライターだったら何を提言するか、考えさせられる事態です。」(5月24日に拝聴)

つまり、ソニーは情報漏洩の被害にあった顧客への賠償のことで頭がいっぱいのようですが、それと同時に、これからの顧客が安心してサービスを享受できるように何をするかという視点が大事だと話してくださいました。

同じことはやはり福島原発にも言えます。今、重要なのは、原発問題は国家の行方を左右する建国以来の危機であること。政府は農作物など生産者の視点で対策を考えており、放射能汚染許容量を引き上げることで問題をうやむやにしていますが、大事なのは、国民の生命の安全、とくにこれからの日本を担う子供やその子孫の視点です。

2つの事例に共通して大事なことは2つあります。一つ目は、事の重要性を見極め、必要な場合はトップ・ダウンで対処すること。二つ目は、組織の原点に立ち返ること。もっとも大事なステークホルダーが誰かを見極め、その最大関心事に対処することです。

そのように考えれば、自ずと、首相なりCEOなりが、自らがリーダーシップを発揮して対処すべき事であることに気付くでしょう。まさしくトップ・マネジメントの対応、リーダーシップが世間から問われる瞬間です。よって、私たちはこれを「想定外のリーダーシップ」と名づけました。

原発問題は東電のこととして政府の腰が引けています。また、ソニーも情報セキュリティーの問題として扱っており、トップの腰が引けているように感じます。

そもそも最近の報道を見ていると「国は今更そんなことを言うのか」というようなものがあまりにも多すぎて、毎朝、パソコンを立ち上げてmsnのニュースを見るたびに、自分の国を嘆くことが多くなっているように思います。

一体、総理大臣のスピーチや発言は誰がコントロールしているのか?誰がマネジメントしているのか?何故、こうも紆余曲折した情報が次から次に野放図に出てくるのか?

また同様の問題は企業ではどうか?ソニーの問題にしても、そもそもストリンガーさんは何故、出てこないのか?

「想定外のリーダーシップ」が問われる環境では、ただ単にPR会社を雇ってクライシス・マネジメントの業務を発注すれば良いというものではないように思います。

日本企業のなかでスピーチ・ライティングという職業・ポジションをどの程度の会社が持っているか、それは良く知りませんが、まさしく今のような「想定外」では必要な機能だと思います。

私はマーケティングを生業とする者として「言葉の力」を信じています。マーケティングとはつまるところ「コミュニケーション・ビジネス」にほかなりません。トップ・マネジメントは「言葉」によって社内・社外での求心力を高めもすれば低くすることも出来ます。言葉によって応援団を増やすことが出来る。しかし最近のトップ(政府も含め)を見ていると、言葉の力を軽んじているか、さもなければ脇が甘いように思えます。

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