若い社員を動機づけるもの

配信日:2011年

毎年4月のメルマガでは新たに管理職になった人たちに向けたテーマを選ぶようにしています。特に新人さんも入ってくる時期ですので、気分も一新、なにかと新しい環境で仕事をしている人が多いと思います。

先日、マーケティング・コンサルタントの齋藤孝太さんと話す機会がありました。齋藤さんはカスタマー・リレーションの専門家として、大手小売企業の店舗改善やスタッフ教育を中心にコンサルティングをされています。そんな「売りの現場」の齋藤さんが次のように言っていました。「最近の店舗スタッフは経営者がどれほど売上目標を掲げても、それでやる気になる人は少ないです。特に女性ばかりの環境では顕著です。」

「売上目標を掲げてもそれが動機付けにならない」というのは最近に始まったことではないのですが、どうも聞いてみると会社の業績やシェアそのものに対する興味が薄いことが問題のようです。これを世代の違いとして片付けてしまうことも簡単でしょう。

またバブル崩壊頃に社会人になり、現在、企業の中心的役割を担っている40代前半の管理職も売上目標を掲げることで部下を動機づけられるものではないことはよく分かっていると思います。

では若い社員を動機付けるものは何か?それは「価値観」ではないかと思います。再びコンサルタントの齋藤さんの言葉ですが「店舗スタッフが何故、そのブランドを売っているかというと、多くはそのブランドが好きだからというのが答えです。」

確かに昔から外資系のラグジュアリー・ブランドではよく言われてきたことです。「そのブランドが(消費者として)好きだったから、そこで働きたい」というのは正直な感想です。

もう少し具体的に言うなら、お客様に対して自分たちが提供しているバリューへの賛同と共感こそが彼女たちを動機付けていると思われるのです。売上目標には興味がなくても、どうせ働くのなら自分自身が共感できる企業で働きたい。自分の扱っているものに共感できるからお客様に対しても正直に伝えられるというのが「価値観によって動機付けられる状況」だと言えます。これは彼ら独特の自社(職場)への貢献観でもあります。

そのような価値観を共有できている経営者や管理職はどれくらいいるでしょうか?特に経済が右肩上がりの時代に経験と成功体験を積んだ経営者ほど理解しがたい話かもしれません。

一方で、そのような価値観で働く店舗スタッフとお客様というのは、そこに深い共感と信頼関係を築きやすいのもまた事実のようです。興味深いのは、顧客との間にそのような関係性が出来ると、お客様自身も店舗や商品を価格で比較するとか、サービスレベルで比較するとかをやめるようになることです。

むしろお客様は「自分で選ぶ代わりに、あなたに選んで欲しい」という感覚になる。店舗スタッフに主導権を取ってもらいたがるようになるのです。これは比較の世界とは逆方向に行くことで、企業にとっては文字通りの従業員を通じてブランド・ロイヤリティを築いている状況といえます。

このような状況は売上目標や販売施策とは全く別次元で起きている売上アップの現象です。若い人たちはこのような環境で働くこと自体をモチベーションにしているように思います。

「価値観で動機付けられる」という話をすると、直ぐにもミッション・ステートメントの話を連想しそうですが、どうやらそのようなツールを持っているから解決出来るという話でもないようです。それは「経営者感覚の企業理念」であって「私の理念」ではないと理解されがちなように感じます。

そうなってしまう多くの原因は「ミッション・ビジョン・コアバリュー」というものが社内を向いて作られる「こうありたい」という希望をまとめたものであることに起因しています。つまり「こうありたい」と「こうである」は往々にして違うものだということを示しています。そして彼らがお客様と共有する価値観は「こうである」のほうで、従業員なのだけど消費者感覚で自社の提供価値を見ているように思うのです。これを言語化することが経営者や管理職の重要なマネジメント・イシュー(課題)かもしれません。

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