時代背景とマーケティングスキーム

配信日:2011年

先日、事務所の掃除をしていて本棚の奥に面白いものを発見しました。「サントリーグルメ」というグルメガイドブックです。約40年前に出版されたであろう非売品の本です。出版年月日は出ていません。多分、消費者向けのキャンペーン施策として作られたものではないかと思います。

この本の持ち主は、かつて私のビジネス・パートナーだった飯田昇さん。2006年に舌癌で亡くなってしまいましたが、彼がサントリー勤務時代に入手したものだと思います。

飯田さんの思い出とともに開いてみると、そこにはやはり40年ほど前のフランス料理事情の紹介がされていました。「ロッシーニ風ステーキのフォアグラ添え」「仔牛の脳みそバター添え」「舌平目のグラタンパイケース詰め」などが紹介されています。これらの料理はいまでは日本でも、フランスですら、なかなか目にすることはありません。

それは時代が変わり消費者の求めるものが変わってきたからです。随分前から、もっとヘルシーで軽い食事を求めるようになりました。

こんな話を最初にしたのは、日頃、ビジネスやマーケティングの本や教科書を読む上でも同じように「その本が書かれた時代背景」を意識する必要があることを言いたかったからです。

古い書籍の例で言えば、私が持っているコトラーの「マーケティング・マネジメント(第7版)」では、1996年当時、すでにブランド・マネジメントがアメリカにおいて機能しなくなってきた(580ページ)と書かれています。そこには「広告よりもクーポンや割引など販促オリエンテッドなものが必要」「全国一元管理ではなく地域に密着したマネジメント体制が必要」とありますが、今の時代はむしろそれを行なった限界から「割引などの疲弊する施策ではなく、もう一度ブランドを育成することを考えよう」「全国一律どころかグローバルに同じメッセージを発信するブランドを構築しよう」という流れになっています。これなどもこの本が90年代にアメリカで出版されているという事情を勘案して読む必要があります。

特にマーケティングやマネジメントの教科書を読む時はその時代背景を勘案しながら読むべきだと思います。例えば現在でも大手企業の経営計画の基盤になっている「戦略市場計画」はアメリカで70年代に出てきた考え方です。マネジメントの階層性にしても同様。それらは「当時では上手くいった」という枕詞をおいて読むべきであり、それを聖書にしてはいけないと思います。

企業活動のなかでも昔からのマーケティング・スキーム(方法論)を変えないまま、マーケティングやプランニングが疲弊していることは多々あります。例えば、ブランド・マネージャーの悩みの一つとして「組織の壁」問題がありますが、これなども解決しきれないまま過去から現在まで、今までのやり方を変えずに続けていることが原因です。

競争環境の変化が速くて、かつ消費者の求めるものがより専門的で高度なものになっている今のような時代だからこそ、かつて以上に組織の壁が戦略のトンガリをなくし、ビジネスのスピードを遅くするものとして問題になるのです。しかしブランド・マネージャー自身の動き方は「10年前と同じ」であることがほとんどです。

どうしてそのやり方を続けるのか?と質問すると「上司もそうしていたし、そういうものだと思っているから」という答えが返ってきます。きっと上司の方も同じように自分の上司を見てそうしてきたのでしょう。これは一種の慣習になってしまっているのかもしれません。あたかも毎朝、会社に来てパソコンを立ち上げると同じ画面が現れるように、その画面しか知らなければ他のやり方を知るよしもありません。ここが昔のやり方に囚われ、「学習された諦め」を招いている原因とおもわれます。

やはり時代の趨勢や時代背景を勘案したスキームに変更していくことが重要です。現在のやり方が役に立たなくなってきた、機能しなくなってきたと思ったら、やり方を変えてみる勇気が必要だと思います。今、「勇気」という言葉を使いましたが、まさしく怖いことかもしれません。しかしこれは諦めの反対そのものだと思います。

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