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飲食店のブランディング

配信日:2012年1月18日

飲食店のブランディングで最も効果があるのは、依然、ミシュランだと思います。特に去年、3つ星だった店が今年も星3つだったりすると、そのブランド価値は年々、高まるようです。

一方で、ミシュランに載ったことが原因で嫌われてしまうケースもあるに違いないのです。東京版に続き、関西版ミシュランが出版される時、京都の料亭では掲載を辞退するケースが多かったと言います。

これなどは「ミシュランなどに載せてもらわなくても結構。むしろ格が下がる」という理由の他に「そんなものに取り上げられて、昔からの懇意にしてくださるお客様に迷惑がかかるかもしれない」「お客様はミシュランに掲載されることを望まないかもしれない」というお客様視点での思惑もあったことでしょう。

一方で、ミシュランには載らないけど「私にとっては特別なお店」というレストランは誰もが持っていると思います。これも立派なブランド。

私にとっては、例えば「チャコ」という昔ながらのステーキハウスがそうです。もう10年来、通っている店でして、オーナーシェフの東さんは大事な友人の一人。

何が特別かというと、私の好みをしっかり把握してくれていることです。表面はカリッと香ばしいのに中はほとんど火が通っていない8オンスのフィレステーキ。私はまだ中が冷たいくらい、牛が火を跨いだくらいの焼き加減が好きです。一方で肉の表面を美味そうに覆う炭火焼の香ばしい歯ごたえも捨てがたい。普通は両立しがたい矛盾に満ちた焼き方です。「今日もいつもの?」「お願いします」説明しなくてもわかる、メニューにはないメニューです。

東さんによると、秘訣は肉を切る時の厚さと室温にさらす時間、火を通す時間。このバランスと組み合わせに両立させる答えがあると。当然、お皿も熱い鉄板ではなく陶器の皿で出てきます。さもなければ食べている最中にベリーレアはレアに、レアはミディアムに、ウェルダンは炭になってしまう。

チャコもそうですが、お客さんのことを良く知っている店は、やはり固定客やご贔屓が多くなります。私もそんな一人です。

フードマーケティング・コンサルタントの大作和弘先生によると、飲食店のビジネスでは次の5つが大事だと言います。

まずはリコグニション(Recognition)。お客さんの名前を覚え、嗜好を覚え、どんな人かを覚えること。チェーン展開しているレストランではスタッフ同士でお客さん情報を共有する会議を行なうこともあります。

2つ目はアンチシペーション(Anticipation)。そのお客さんのニーズを先読みして対応すること。例えばお水や取り皿が欲しいときにお客さんから言われる前にサーブするなど。

3つ目はカンバセーション(Conversation)。言うまでもなく、お客さんとの楽しい会話。お客さんによっては食べることよりもスタッフやシェフとの会話を楽しみにしている人もいます。(バーテンダーとの関係ではよくある事ですね。)

4つ目はフェーバラビリティ(Favorability)。日本語でいうと“えこひいき”。特に馴染みのお客さんに対しては、一般にはない特別なサービスを与えること。顧客を選ぶことと特別扱いすることが大事です。

5つ目はクレーム対応(Complaint)。なにか問題が起きた時に、お客さんの不愉快をチャンスと捉えて「そこまでしてくれるのか」と逆に感動させてしまう対応をすること。それによって今まで以上にお客さんはファンになってくれます。

この5つは、実は飲食店に限らず、すべてのサービス業に当てはまるポイントだと思います。そういう意味では飲食業以外の方も参考にして頂ければと思います。

ミシュランには載っていませんが、チャコは私にとってブランドでした。

去年のことです。オーナーシェフの東さんが急逝されて、店は12月29日に閉店となるとの連絡をもらいました。肺動脈塞栓症とのこと。びっくりしました。それに本当に残念です。12月の友人との忘年会は「最後のチャコ」でした。30年も続いた老舗ステーキハウスだったので再開を願う声も多いようです。ブランドはそれが市場から姿を消した後も思い出の中に生き続けるものです。

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