与えてしまう戦略

配信日:2012年4月4日

先日、懇意にして頂いているプロダクション会社の社長さんと食事をしました。ウェブ関係の制作を行なっている会社さんです。会話が進むにつれてクライアント企業との価格交渉の話になりました。

「昔はよくあったことですが、お客さんに呼ばれて先方に出向くと、あまり予算はないけどこのような立派なものを作ってくれないかと言われます。僕も商売でやっているので本当は十分な予算がほしいけど、断ってしまっては売上そのものが立たないのでなんとか頑張って仕事を取ろうとします。またお客さんもそのようなこちらの思惑をちゃんと知っていて、低い予算でもやるだろうと考えています」

さらに続けました。

「要は安いお金で目一杯働かせようとしているのが分かっていました。だからこちらもそのお客さんから少しでも高く取ることばかり考えていました。あの頃は荒(すさ)んでいたなぁ」

お客さんとの価格のせめぎあい。たいていはお客さんが勝ちます(笑)。
この社長さんの話、なかなか身につまされるではありませんか?特にB2Bに携わっている人は同じような経験をしていると思います。

彼の会社はちゃんとホームページのなかで価格表も出しています。しかしほとんどお客さんはその価格を下回る予算を先に提示して仕事をしてくれるかどうかを尋ねるわけです。悩ましいところです。「嫌なら断ってもいいよ」というわけです。

彼としては、本当はバンバン他の仕事が入ってきて、そのような仕事は受けないという態度を取れれば良いのですが、なかなかそういうわけにもいかないのです。安い価格であろうと、早く売ってしまい、早く成功したいからです。

価格提示の難しさは、そのブランドの価値が伝わる前にそれを提示してしまうと、たいていは「高い」と思われることです。よって価格はブランドの価値を理解してもらった後、つまり最後に提示されなければなりません。

例えばホームページでの価格提示は、お客さんにとっては大変親切なやり方ですが、その場合、お客さんがホームページを訪れる前にそのブランドの価値を認めていることがポイントです。私のようなコンサルタントにとっては書籍がその役割を果たします。

先ほどの社長さんが更に続けました。

「でも最近はちょっと発想を変えたんです。というか、別の事実に気づきました。もしそのお客さんで十分な単価が取れなくても、不思議とそんな時は新規のお客さんがどこからか現れて別の売上を作ってくれるんです。不思議ですがそうなんです。それに気づいて以来、僕のすさんだ心も随分、穏やかになりました(笑)」

こんな経験をしている人も多いのではないでしょうか?

実は私も同じような経験があります。
例えば「60分無料体験セッション」というコンサルティングセッションの体験型見学会。これはコンサルティングという目に見えないサービスを実体験してもらうことで、私の手法やセッションそのものの効果性を理解してもらうことを目的としています。大抵はコンサルティング・プロジェクトを考えている新規クライアントさんが「契約を検討して良いかどうかの確認」として活用してくださるものですが、なかには単純にタダのコンサルを受ける目的でいらっしゃる方もいます。

しかし不思議とそのような方のセッションをこなした後というのは、別の新規案件がどこからともなく持ち込まれます。しかも体験セッションではなく、最初から契約前提での紹介が多い。まさしく「十分な単価がとれないお客さんの仕事をすると別のお客さんが別の売上を作ってくれる状況」です。

どこかでの損は別のどこかが必ず補填してくれる。つまり社会とはそのような「信頼」によって成り立っているではないかと思うのです。必ずどこかで補填されるという社会に対する信頼です。信頼をベースにしたバランスが自動的に働き、どこかの損は別のどこかの利益として平準化されるのではないでしょうか?

そのようなことに気づいてからは価格交渉や売上の心配(SHINPAI)が信頼(SHINRAI)に変わりました。この2つの文字はPとRが違うだけ(しかもよく見るとRという字にはPが含まれている!)ですが、意味はまるっきり反対です。

もしそういうバランスが働くのなら、価格についての心配は止めて、この際だから信頼しどんどん「与えてしまう戦略」を取ってはどうでしょうか?するとこのバランスが能動的に機能し始めます。さらに価格交渉までもなくなるようです。相手から取ることより与えることを始めると、相手も与え始めます。なぜでしょう?きっと与えるほうが取ることよりも気分が良いからです。「こちらが気分よく与えると相手も気分よく与えたくなる」という人間関係への信頼がここにはあります。

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