カテゴリの一部を切り出し「新カテゴリー」を打ち出す

配信日:2018年05月16日

例えばスーパーマーケットなど量販店で売られる食品ブランドではターゲット消費者を変更しづらいこともあります。これらはどうしても量販店というチャネル自体が対象にしている消費者に制約されることが多いもので、どれだけブランド・マネージャーが手の込んだターゲットを再設定しても限界があることが多いのです。

そのような時に着手するのはカテゴリーの再開発です。つまり新カテゴリーの可能性を探ることです。消費者がこれまで慣れ親しんできたカテゴリーの一部を切り取り、そこに特化して新カテゴリーを打ち立てる戦略です。

インスタントコーヒーのブレンディはスーパーマーケットという売場やターゲットの制約があるなかで新カテゴリーの創造をしながら成長してきたブランドです。元々はインスタントコーヒーのブランドでした。やがてドライ製品からRTD(ready-to-drink)に飲料のトレンドが移っていくと、900mℓの「ボトル・コーヒー」を作り出しました。当時、リキッドタイプのコーヒーは既にありましたが、2リットルタイプのペットボトルが主流でした。しかし2リットルのペットボトルは円形でその直径は家庭の冷蔵庫のポケットに収まりにくく消費者は不便を感じていました。そこでポケットの幅に合わせて直径を計算しなおし、かつ四角型に変更し、すっきり収まるようにしました。また900mℓという量も、家族4人がおいしく飲み切れる適量を意識したものでした。これを「900mℓペット」と言わず「ボトル・コーヒー」とカテゴリー名にしました。単なるペットボトル・コーヒーの亜流ではなく、ボトル・コーヒーという今までにない新規性を打ち出すためです。

さらにインスタントコーヒーのカテゴリーでも新カテゴリーを作りました。当時、インスタントコーヒーは瓶に入っているのが普通でした。そして特売されるのが常識でしたが、ブレンディは最初に「詰め替えカテゴリー」を作りました。消費者は瓶製品を一度買えば、後は詰め替えて瓶を再利用できる。もちろん詰め替えは瓶製品よりも安価です。特売に興味のあった消費者には魅力的な新カテゴリーでした。そして面白いことが起きました。競合ブランドのネスカフェを買っていた消費者が、そこにブレンディを詰め替えて使うようになったのです。ネスレは詰め替えを出すのに数年かかりました。瓶製品で70%ものシェアを持っていたために、安価な詰め替えを出すことで収益性が下がる、つまり悪いカニバリが起きるからでした(これを「戦略的ジレンマ」という)。ブレンディのインスタントコーヒーでのシェアは30%まで伸びました。そして、いまでは瓶タイプは影を潜め、詰め替えタイプが主流になっています。

更に時代が「個食」や「家庭外での中食」を迎えると、今度は「スティックタイプのミックス・コーヒー」のカテゴリーを作り出しました。もはや専業主婦は少なくなり、仕事を持つお母さんたちに仕事の合間に手軽にカフェオレやフレーバーコーヒーを楽しんでもらえるカテゴリーの提案でした。カテゴリーのネーミングもこだわりました。「スティックコーヒー」ではなく、「ブレンディ・スティック」としました。とうとうカテゴリー名にブランド名を付け、それ自体を製品名としたのです。これによって自らがこのカテゴリーを作ったのだと宣言したわけです。同時にカテゴリーを占拠する戦略でもありました。いまでは競合ブランドも類似製品を出していますが、ブレンディは最も売れているリーダー・ブランドです。

これらはターゲットを変えることが難しいなかでのリニューアル事例です。消費者は「新しい味」「新しい種類」などの新製品にはあまり興味を抱きませんが「新カテゴリー」には興味があります。よってターゲット消費者を変えられない状況では「新カテゴリーの提案」が効くのです。既存の「コーヒー」または「インスタントコーヒー」というカテゴリーの一部を「ボトル」や「詰め替え」という言葉を加えて、切り出す(セグメンテーションする)戦略です。

消費者は「コーヒー」という言葉も「ボトル」という言葉も知っていますが、二つの言葉を組み合わせて「ボトル・コーヒー」となった瞬間に「新しい言葉」と認識します。これが新カテゴリー創造の瞬間です。まるで「ジン」と「トニック」を混ぜると「ジントニック」という第三の飲み物が出来上がるのと同じです。新カテゴリーを作るとは言葉を組み合わせながら、市場の一部を切り出していく戦略(マーケット・セグメンテーション)なのです。

マーケット・セグメンテーションは競争戦略としても有効です。自分だけの「専用の土俵」を作るのです。そこでは先行する競合ブランドもおらず、自分なりのルールでビジネスをすることが出来ます。いかに競合を倒すかという発想ではなく、いかに競争を回避するかの発想です。リニューアルをきっかけに、競合他社のつくった土俵に新参者で戦いに挑むのではなく、自分だけの土俵を作る発想です。

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