情緒的価値とは何か
配信日:2010年
コンサルティングのなかでよくある相談は「製品の機能性、味や香りには何の問題もなく価格も手頃なのに、お客さんのリピートが悪い」というものです。品質をどれほど良くしても、だからと言ってロイヤル・ユーザーになってくれるわけではないというものです。
しかしこれはそれほど珍しい話ではありません。なぜならば他にも同じように優れた製品・ブランドは存在するし、消費者はそれで十分満足しているからです。少し視野を広げてみれば冷静に分かることも、日々、現場での仕事に没頭しているとどうしても近視眼的になってしまうのかも知れません。
いやロイヤル・ユーザーなどというものは所詮、一時的なものでしかないと多くのマーケッターは薄々気づいています。消費者とはある特定の製品に全面的にコミットメントしてくれるわけではなく浮気の可能性は常にあると。そこで今回はその対策について話しましょう。
実はこのような企業・ブランドに足らない発想は「情緒的価値の構築」です。
情緒的価値とは機能的価値の対極をなすコンセプトで、顧客の「好き・嫌い」を示すものです。機能的価値とは逆に「良い・悪い」を示すものと考えて良いと思います。
「品質で言ったらドイツ車や日本車のほうが間違いないけど(機能的価値)、でも僕はアルファロメオが好き(情緒的価値)」と消費者に言わせること。顧客との心理的なきずなを作り上げる接着剤のようなものが情緒的価値です。情緒的価値が低い(あるいは無い)と、いまどきのブランドは苦戦を強いられることになります。
情緒的価値を築くにはどうしたら良いでしょうか?
一つの答えは「ブランドの世界観」を意識すること。まずは社内で「世界観の見える化」を行うことが重要です。
ブランドの世界観とは「コアなファンを安心させてリピートさせる要素」に他なりません。「らしさの蓄積」と言っても良いでしょう。それらはブランドのそこらここらに端的に出現するものです。
メルセデスのドアを閉める時の安心を呼び覚ます音。タイ航空のキャビン内に漂うロータスの香り。エビスビールのジングル、「第三の男」。ラトリエ・ドゥ・ジョエルロブションでは店内のオブジェや装飾額はすべて「食べられるもの」をモチーフにすることになっています。このようなものが端的なブランドの世界観を構築する要素です。(もしロブションのオブジェに中世の甲冑人形がおかれていたら、それはすでにロブションらしさに反するでしょう。)
リピート顧客は、実際、このような世界観に対して対価を支払っているように思います。
世界観を理解するにはテレビ番組を例にすると良くわかります。ちょっと古い話ですが分かりやすいので仮面ライダーで説明しましょう。
次のライダーのうち、最も仮面ライダーらしくないのは誰でしょうか?
1号ライダー 2号ライダー V3 アマゾン Xライダー
セミナーでこの質問をすると100%の確率で「アマゾンが一番、仮面ライダーらしくない」という回答をもらいます。その通り。仮面ライダーは「バッタをモチーフにした改造人間」ですが、アマゾンだけは「ピラニアをモチーフ」にしています。
これは「アマゾンは仮面ライダーの世界観を持っていない」ということと同じこと。瑣末なことに思えるかもしれませんが、年間平均視聴率は次のようになっています。(ニールセン調べ)
1. 仮面ライダー1号:25.8%
2. 仮面ライダー2号:21.1%
3. 仮面ライダーV3:22.2%
4. 仮面ライダーアマゾン:16.1%
5. 仮面ライダーX:19.2%
これが消費者のリピート率を示しています。世界観を踏襲しないことで視聴率が落ちる。仮面ライダーXではその反省があったのかもしれません。世界観は昔のライダーに戻り、同時に視聴率も回復しました。(ちなみに最近ではライダーなのに「電車に乗って登場する仮面ライダー」もいます。仮面ライダー電王。年間平均視聴率は7.1%)
製品ラインを拡張するときはこの「ブランドの世界観」を梃子にすること。これを「パラレル・ワールド」といいます。逆に新ブランドを立ち上げるときは、いままでのブランドとはまるで別の世界観を構築するように設計しておくこと。これがブランド同士のカニバリを防ぎ、別の顧客に新ブランドを買っていただくアプローチになります。