ブランディングの始め方
配信日:2010年
最近では大企業に限らず中小企業でもブランディングを開始したいというニーズが多くなっています。ブランディングを始めるには、まずは社内の意識作りを行うことがコツです。インターナル・ブランディングの一環といっても良いかもしれません。
そのために社内にプロジェクト・チームを作って開始することが多いのです。これは市場に対する働きかけを行いながら、社内でのブランディングへの意識付けを行うアプローチで、私のコンサルティングでも概ねこの方法をとります。
そもそもブランディングに対するニーズが広がった実際的な背景とは何でしょうか?
おおまかに言うと、これまで日本企業は開発と営業をビジネスの両輪としてやってきました。つまり新製品・新モデルを毎年打ち出し、それを営業カバレッジで売っていくというのが基本戦略でした。
しかしどの業界でも競争の激化、低価格化、競争のグローバル化(特に対アジア)が進行し、開発した新製品はライフサイクルがどんどん短くなっていくという結果になりました。もっと言うならばマーケッターの「新製品の見切り」が早くなったことと、営業サイドからの「新しい弾を求める声」が強くなったことが直接的な原因です。
そうしたなかで経営者やマーケッターは「一体、いつまでこのような開発を繰り返すのか?」「すぐに売れなくなってしまう新製品のために本当に莫大なマーケティング投資は必要なのか?」という疑問を持つようになりました。開発業務そのものが自転車操業的であって、漕ぐのを止めてしまうとすぐに業績に影響する。しかも新しいものを市場導入にするにはそれなりのコストがかかるのに、その新製品自体が売れなくなってしまうと、マーケティング投資がすぐさまサンク・コスト(埋没費用)になってしまうという問題です。
「新規性よりもロングセラーとしての信頼性で売るにはどうしたらよいか?」
「打ち上げ花火的でない新製品開発はどうしたらよいか?」
「仮に製品が新しくなっても継続・蓄積的にビジネスに活きるマーケティング投資とは?」
「顧客にとってあこがれになるビジネス・モデルとは?」
このような問題意識から出てきたひとつの回答がブランディングです。
実際に私のところに相談に来てくださるクライアントさんの多くは「開発と営業の自転車操業」から抜け出す方法としてブランディングを求めていらっしゃいますし、彼らの全員が「ブランディングを前提としないマーケティングなど無意味だ」と気づいていらっしゃいます。ですからそれらの企業では「プロダクト・マネジメント」という言葉はもはや昔の言葉です。彼らが使う言葉は「ブランド・マネジメント」であって、プロダクトはその下位概念にくるものという認識をされています。
「ブランディングなど不要だ」という企業は今では少ないと思いますが「どのようにブランディングを始めるか」というのは企業にとって大きな問題です。これはこれまでの「開発と営業」の自社スタイルがあるなかで、大きな方向転換・発想転換をしなければならず、少なからず「総論賛成・各論反対」のジレンマに直面するからです。
冒頭にも書きましたが、私はまずはインターナルから着手していくことが重要だと考えています。更にこれまでのコンサルティング経験では、上手くいく企業というのは、すべからく「小さく始める」というアプローチをとります。
まるで新しい靴クリームを試すようなもので、いきなり全社にそれを塗り込むようなことはせず、まずは一部の製品、例えば小さな製品や小さな事業部などを対象に、目立たないところで試してみて、それから全社に導入するのが賢い方法です。
ブランド・マネジメントの元祖、P&G(プロクター&ギャンブル)でもそれは同様でした。当時、まったく日陰の存在だったキャメイ(高級石けん)で小さく試しそこで手法の検証・構築をして全社に導入していきました。当時のブランド・マネージャーはニール・マッケルロイ。彼は世界初のブランド・マネージャーですが、後にP&G会長、さらにはアメリカ国防長官まで勤めた人物です。
小さく始めることは長い目でみて成功するようです。またそのようにしてブランディングを開始するクライアントさんを見ていると「どんなことでも一足飛びにはいかない」「しかし始めなければ何も変わらない」ということをよく知っていらっしゃるように思います。