消費者ニーズを分解する

配信日:2011年

消費者ニーズ。これほどマーケティングにとって基本的な概念もありません。それにもかかわらず、これほど企業を悩ませるものもありません。マーケターはニーズを明確にするために多額の調査費用を使います。それでもマーケティングでの失敗は数知れません。その多くはニーズの見極めに原因があります。

青りんごやジンジャーの風味を加味した「フレーバード・ビール」は、ビール・カテゴリーで確たる存在を示すほど売れるでしょうか?そうはならないでしょう。ビール・ユーザーの本音としては甘ったるいカクテルのような味よりも、ビール本来の味わいを求めるからです。一方、カクテル・ユーザーにはビールの味が邪魔。どちらのユーザーにとっても「自分に向けられた製品ではない」と映るに違いない。

私もこのような新製品を出して失敗したことがあります。「ミルクで作るインスタント・カプチーノ」です。温めたミルクでこのコーヒーを溶くと本格的なカプチーノの泡がふわっと出来る。発売前の受容性調査では非常に高い評価を示しましたが、実際には全く売れませんでした。消費者は、調査会場で買いたいかどうかを答えるのと、実際に店頭で手にとって自分がそれを使う場面を想像するのとでは全く別の反応を示すことがあります。店頭では「わざわざミルクを温めるのは面倒だ」と思われたのです。

私の経験を見てもわかるように、このような製品は吹けば飛ぶような売上しか期待できません。これを「貧血気味の売上」と呼んでいます。

何故、「貧血気味」になってしまうのか?今回はそこを考えてみましょう。

マーケターはニーズの有無を確認するために市場調査を行います。たいていは良い結果が出てきます。しかし実際には売れないことが多い。ここが困るところです。ミルクで作るインスタント・カプチーノのように。それは調査の場面で消費者はコンセプトを前に「漠然と欲しい」と答えるからです。こんなことはマーケターが日常的に経験することといえます。しかし調査そのものが問題なのではなく、調査以前のマーケターの仮説が問題であることが多いのです。つまりニーズがないわけではなく、小さなニーズしか満たせないコンセプトだから売れないのです。よってマーケターは調査を行う前に、そのニーズの大きさを考える必要があります。

ニーズとは2つの要素に分解できます。
一つは「必要性」です。その製品が必要かどうか?必要性が大きければ大きいほどモノは売れます。必要性が小さければ小さいほどモノは売れません。

もう一つの要素は「欲求」です。欲求とは欲しいかどうかです。必要性と欲求は似て非なるものです。必要性を感じていても欲しいと思わないケースはあります。例えば「歯が痛い。親知らずの抜歯をしなければ」という時に、「歯医者に行かなければならない(大きな必要性)」とは思っても「でも行きたくない(小さな欲求)」と思ったことはないでしょうか?あるいはメルセデスの新車を見かけて「かっこいい。いつかは欲しい(大きな欲求)」と思うかもしれません。しかし一方で「でも今の生活には必要ない(小さな必要性)」と感じたことはないでしょうか?

必要性と欲求は別々に存在し、それぞれの掛け合わせでニーズの大きさは決まるようです。フレーバード・ビールやミルクで作るカプチーノがあまり売れないのは「一度は飲んでみたい(大きな欲求)が毎日は必要ない(小さな必要性)」ことが原因です。

実は、製品や業界を問わず、消費者ニーズは次の4つのセグメントしかありません。

1. 大きな必要性と大きな欲求を感じるセグメント(ハイエンド。よく売れる)
2. 大きな必要性を感じる一方で小さな欲求しか感じないセグメント(あまり売れない)
3. 大きな欲求を感じる一方で小さな必要性しか感じないセグメント(あまり売れない)
4. 小さな必要性と小さな欲求しか感じないセグメント(ほとんど売れない)

売れない製品とは、たいていは「大きな必要性と大きな欲求」以外のセグメントにいることが多いものです。必要性が小さいか、欲求が小さいか、あるいはその両方か。マーケティングの梃入れをするには、自分の製品が一体、どのセグメントにいるかを見極めることが重要になります。そして、これを文字通り「セグメンテーション」といいます。更に、そのなかの「買わない消費者」に「ターゲティング」すること。従来、マーケティングではそのセグメントの中の「買う消費者」をターゲティングしてきました(あまり売れないセグメントであろうと「買う消費者」は少数だが存在する。)が、私は経験から「買わない消費者」の心理分析をするほうが近道だと考えています。それは買わない消費者のほうが圧倒的に多く、彼らの認識を変えるほうが成果は大きいからです。具体的には「買わない本音」を推測することが必要になります。これが「コンシュマーインサイト」です。

フレーバード・ビールは「欲求はあるが必要性はない」セグメント。そして消費者は「興味はあるが、飲むなら一度でいい。試すだけでいい。毎日は必要ない」「フルーツのフレーバーは興味があるがビールの味を損なう」と考えたかもしれません。もしそうだとすれば、今後、フレーバード・ビールを売るのに必要なのは消費者に「フレーバーの必要性」を訴求することです。値段を引き下げることよりも必要性を引き上げることが課題になります。

例えば「いつものビールではつまらない。パーティを華やかにするビール」というコンセプトに変更する。それによってパーティ・シーンでの必要性を上げる戦略です。すると家庭用市場よりもクラブやカラオケなどで売れる可能性が出てくる。これでもまだ十分な売上には届かないかもしれないですが、売上改善には繋がるでしょう。

一方で、非常に売れるブランドは「大きな必要性と大きな欲求」を満たすものです。これを「ハイエンド」といいます。マーケターは調査を行う前にハイエンドを満たすコンセプトかどうかを検討する必要があります。後々、キワモノ・コンセプトを修正するよりも、本当はコンセプト検討の段階でハイエンドを満たすかどうかを考えるほうが賢いのです。

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