企業の行動規範とは

配信日:2011年

新規事業の戦略を立てる時や、企業ブランドのリポジショニングを行う時、ミッション・ステートメントをまとめることがあります。

ミッション・ステートメントとは事業の「使命」を文章にまとめたものです。特に震災以降、企業は「あり方」が問われるようになっており、あらためてミッション・ステートメントを見直す潮流もあります。典型的なのはソフトバンクです。ソフトバンクがメガソーラー発電所の事業を行うのは、まさしく3・11を受けての「エネルギー供給のあり方」を提起しているのです。

消費者にとっても、そのような「企業の使命」をわかりやすく伝えてくれる会社は自然と応援したい気分になります。「日本のエネルギー政策を安全で環境に優しいものにしたい」と言われれば、応援したくなる人が圧倒的に多いのではないかと思います。

ミッション・ステートメントは通常、3つの要素から成り立ちます。まず「事業の社会的意義(ミッション)」次に「そのために自分たちはどういうあり方をするか(ビジョン)」、最後に「そのビジョンを実現するために日頃、心がけなければならない行動はなにか(行動規範・バリューズ)」です。

分かりやすくするために、私のセッションでは次のカッコを埋める議論をします。

"我々は(ミッション)のためにビジネスを行います。そのために(ビジョン)であるよう努力します。努力の過程では(バリューズ)をこころがけます。"

簡潔な一文ですが、このように3つの要素を関連的に並べることで、ミッション、ビジョン、バリューズという概念的で解釈の難しいコンセプトを体系的に理解することが出来ます。ミッション・ステートメントとは率直に言って「WHY」「WHAT」「HOW」の整理にほかなりません。

この3つの要素のうち、特に難しいのがバリューズです。自分達の行動規範を定めるのですが、大事なことは「実効性のある定義」を行うことです。

例えば、有名なリッツ・カールトンの「クレド」には次のように書かれています。(クレドは通常、バリューズを平易な文章にして配られます。)

「リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは、感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です」

ここには「お客様のニーズを先読みしなさい」という意味が読み取れます。これが「私たちは紳士淑女に奉仕する紳士淑女である」という、彼等のあり方(ビジョン)を下支えする行動規範にほかなりません。そして多くのホテルとリッツ・カールトンを分け隔てるものはこの一文ではないかと思います。これがどれだけ上手く出来たかでリッツのスタッフは賞賛され、成功事例として共有化されます。

私のなかでの行動規範(バリューズ)の事例として最も秀逸なのはアーミー(軍隊)のものです。

「戦地において行動を共にするバディ(相方)は家族だ。何があっても戦地から連れて帰る」

この一文には戦場における行動のプライオリティが示されています。これこそが実効性のあるバリューズの定義ではないかと思います。戦地でバディが足を撃たれたら、そこで見捨てるのではなく、敵前逃亡してもよいから担いで撤退することが賞賛される行動なのだと言えます。

兵士によってはバディを見捨てても敵と戦うことに価値を見出す者もいるでしょう。しかし、このようなバリューズが予め示されていれば迷うことはありません。行動規範とは様々な状況下で判断に迷った時に「何が重要なことか」を思い出すヒントにほかならず、それによって判断ミスを最小化する目的もあります。

先日のクライアントさんは糖尿病事業を新たに始めるという状況で、ミッション・ステートメントを書き上げました。詳しくは書けませんが、ビジョンは「生涯のパートナー」となりました。(糖尿病は一旦患ってしまうと一生治ることはありません。)

しかし「生涯のパートナー」というビジョンは、社内でも表面的に理解される(キレイ事になる)可能性がありました。どこかの生命保険会社の広告コピーのようになりかねません。そこでバリューズの最初の1つを以下のようにしました。

「糖尿病患者がいる限りこのビジネスから撤退しない」

行動規範をここまで振り切って書くことに違和感を覚える人もいることでしょう。しかしそれ以上にトップ・マネジメントがこの事業を「金銭的なメリット以上に、本当に社会的貢献を求めて」始めるのだということを社員は直観するはずです。

また先ほど言ったように「実効性」も充分に伝わると思います。そういう意味では、バリューズとは社内をその気にさせるための「宣言」でもあります。

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