ポジショニング思考
配信日:2011年
昨日、人事コンサルティングの会社さんに「60分無料体験セッション」で呼ばれました。
この会社さんは人事制度や人材フローを見直すコンサルティングの他に企業ビジョンの社内浸透やスタッフトレーニングなども行なっています。会議では先方のシニア・コンサルタントの方が4名出ていらっしゃいました。
経営コンサルタントと云えども、私のような他社のコンサルタントの話を聞いてみるというのは面白い現象ではありますが、むしろ私は好ましく思いました。謙虚な人でなければこのようなことは出来ないからです。
「弊社は今、企業ビジョンを作っていて自分たちのアイデンティティを明確にしようとしているところです。しかしビジョンを作ったものの、本当にこれで良いかどうかでアドバイスを頂ければと思います」とのこと。
目の前に出された1枚の資料を見るとそこには次のような一文が出ていました。「社内のリソースをクライアントニーズに合致するようカスタマイズしクライアントの経営ビジョン実現に取り組む会社」
内容文をそのまま載せるわけにはいかないので、この言葉は意味を損なわない範囲で私なりにアレンジして紹介していますが、みなさんはこれを見てどう思いますか?
「これは言葉としてはまさにその通りだと思いますが、顧客の視点にたった時にどのようなメリットがあるかが伝わらない一文ですね。また大抵の経営コンサルティング会社がここで書かれているようなことを行なっています。」
つまり「顧客視点」と「独自性」が欠けていると指摘しました。別の言葉でいうならば「ポジショニング思考の欠如」とも言えます。
みなさんもご存知だと思いますが、ポジショニングとは「顧客にどのように思われたいか」を簡潔に書き記したものです。そのように説明すると先程の文章でもポジショニングとして成立してしまうと思う人もいるでしょう。しかし下記のカッコを埋めるとしたらどうでしょうか?
"( )と言えばブランドX"
例えば(マイクロ・ブログ)といえばツイッターというように。同じブログでも(有名人ブログ)といえばアメーバとなるわけで、ここがポジショニングのフォーカスによって市場細分化を行うプロセスそのものなのです。いままでにない言葉を含むユニークなカテゴリー名を冠したときに、ツイッターとアメーバは大きな意味で同じブログ・カテゴリーでありながら全く別のものとして共存することが出来ます。
企業が製品をブランドにする販売上のメリットは「顧客がニーズを感じたときに一番最初に思い出してもらえれば、買われる確率も圧倒的に高くなる」ということです。(これを純粋第一想起と言います。)
例えば、今日のランチは冷やし中華にしたいと思ったとします。そしてオフィスの近所にある小さな中華料理店を思い出すとしたら、そのお店はその人にとってブランドといえます。"冷やし中華といえば◯◯"となるからです。
これはすごく効率の良い販売戦略そのものです。そのために企業はブランド認知を拡大するためのコミュニケーションを継続するわけです。
このポジショニング思考は、この会社さんでの課題と思われました。試しに4人のコンサルタントの方々に「みなさんの会社とはなんですか?」と尋ねると全員が「経営コンサルティング会社です」とお答えになりました。
それはそうでしょう・・・。しかし"(経営コンサルティング会社)といえば◯◯(この会社名)"とならないわけです。大抵は経営コンサルティング会社といえばマッキンゼーやボストン・コンサルティングが入るわけで、ここにポジショニング思考の欠如が見られます。
どのようなことを得意とする経営コンサルティング会社なのかを深く掘り下げる必要があると言えます。そしてそれをユニークで簡潔な言葉にすること。例えば同じ人事コンサルティング会社でも以下のようなものはユニークです。
"(成果主義人事制度)といえばワトソンワイアット"
"(賃金制度)といえばヘイ・コンサルティング"
"(変革マネジメント)といえばマーサ"
これらの人事コンサルティング会社は、実は提供しているサービスそのものはどこも同じようなものです。どこの会社も成果主義問題も扱っているし賃金や変革マネジメントも扱っています。
しかしポジショニング思考がしっかりしているので、成果主義導入を検討しているところはワトソンワイアットを、賃金制度の変更ならヘイ・コンサルティング、というように棲み分けることが出来るのです。そういう意味ではポジショニング思考とは「最初のイメージをユニークなものにする切り口」とも言えますね。
ちなみにワトソンワイアットはその後、他のコンサルティング会社との合併によってタワーズワトソンという別会社になりました。それによって「人事と財務のコンサルティング」という二つの顔を持つコンサルティング会社になりました。人事問題と財務問題ではニーズの所在がまるで違うので、ポジショニング思考としては問題があると言えます。これはブランド戦略を知らないマネジメントの問題だと思われます。