震災後のブランドについて

配信日:2011年

震災が起きてから日本人の生活価値観は確かに変わったと思います。人と人との「きずな」や「つながり」という言葉は毎日のように聞きます。実は昨年もこのような言葉はありました。それは一人暮らしの老人の孤独死や「無縁社会」という言葉とともに、社会における人間関係が疎遠になっているという文脈で存在していました。そのアンチテーゼとして「きずなが求められる」と言われていました。

しかし現在、日本で言われている「きずな」「つながり」はそれらとは明らかに温度の違うものとして感じます。真剣さが違うと言っても良いかもしれません。マザーテレサが「愛の反対は無関心だ」と言ったとおり、隣人に対して関心を持つことから人類愛は始まるに違いありません。今回の震災は悲惨を極めるものですが、まさにそのような社会が到来したようにも思います。

震災を契機に、ブランド論においてもトレンドは変わっていくだろうと思います。やはり「きずな」や「つながり」と無縁ではありません。

かつて消費者にとって「プレミアム感」「稀少性」「目新しさ」などはブランドのキーワードでした。これは震災を経験した今でも変わりはありません。しかしそれらが消費者にとって優先順位ではなくなったように思います。自己表現のアイテムとしてそのようなブランドを身につけるという価値観は影を薄めたように思います。

実はそのようなトレンドはLOHASやエコロジー、安全性の問題をベースに震災前からもあって、そのような価値観を訴求しても思うようにブランド・ロイヤリティを築けない問題として存在していました。特にリーマンショック後のことです。伝統的なブランド論の神通力が衰えてきたと実感していました。それが今回の震災を経て、社会とのつながりという文脈で決定的になったようにも思います。

「社会貢献・人間至上」なるものが震災後のキーワードのように感じています。そのブランドを使うことによって自分のみならず社会(他人)が良くなるかどうかが消費者にとっての関心です。ここに消費者自身の社会との「きずな」な「つながり」意識があります。そのようなブランドはきっと応援されるに違いありません。そしてこの「応援してもらえる」状況こそ、消費者からのブランド・ロイヤリティが築けている状況です。

一方で企業にとって「きずな」や「つながり」をビジネスの文脈で解釈するのは、曖昧な概念ゆえに難しいものがあります。言葉としては理解できるが、それをどのように体現するのか曖昧としているわけです。

そこで企業サイドに立って説明するならば、「何故、自分たちはそのビジネスをしているのか」をちゃんと伝えることではないかと思います。端的に言うならば「志(こころざし)」を伝えること。消費者が企業に共感するには企業側にプラットフォームが必要なのです。それが志。良い製品である以前に、その企業の理念(志)に惚れるからその製品を応援したくなるわけです。つまり志を伝え、それに共感してもらえる状況こそ、消費者が「きずな」「つながり」を感じている状況だと言えます。

かつてはモノを売るために志はあまり重要視されていなかったように思います。少しでもベネフィットが多くて少しでも値段が安ければ消費者はブランドXであろうがブランドYであろうが、あまり大きな問題ではなかった。しかしいまやそれは昔の話です。

今の時代に求められるマーケティングは「いかに差別化を図るか(HOW)」よりも「何故、そのビジネスを行っているのか(WHY)」を伝えることで、それこそが消費者との関係性のなかでは重要だと思うのです。(そしてそれが差別化にもなる。)

当然、その志は社会的なものでなければなりません。「利益を出すためにこのビジネスを行うのだ」というのは志とは言いません。これは利己的な意図であって、志ではないのです。志とは「どのような社会にしたいのか」「人々にどのような貢献をしたいのか」というビジョンに他なりません。

そのようなビジョンを持つブランドは今後、もっと伸びていくことでしょう。そしてそれを雄弁に語るブランドはもっとファンを増やし応援されるでしょう。人間とは「他人に自分の信念を語る者を信じ応援したくなる生き物」だと思うからです。

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