16年もの浪人生活の結果、彼が得たもの

配信日:2013年2月6日

問題です。次のキャリアを積んだ男をご存知でしょうか?

1832年:失業。州議員に出馬するも落選。
1833年:事業倒産
1834年:州議員に当選
1835年:婚約者死亡
1836年:神経衰弱を患う
1838年:州議会議長落選
1845年:下院議員指名投票で敗北
1846年:下院議員当選
1848年:下院議員再当選ならず
1849年:国土庁調査官を拒否される
1854年:上院議員落選
1856年:副大統領指名投票で敗退
1858年:上院議員、再度落選

そして、1860年にアブラハム・リンカーンは米国大統領に選出されました。

そう、これはリンカーンのもの。4月にはスピルバーグ監督の映画「リンカーン」が上映されますね。考えてみれば一人の男の物語が映画になって、150年後に世界中で上映されるというのは、パーソナル・ブランディング的にも興味深いものがあります。

興味深いのは「否定の連続」のようなキャリアです。それでも挑戦する。頭が下がりますね。その物語自体が、リンカーンのパーソナル・ブランディングですらあります。さて、ここにリンカーンのようなキャリアを積んだ男がいます。紹介しましょう。

東京の有名大学を卒業するも、不景気で就職先がなく、彼は生まれ故郷に帰りました。町会議員だった父親の勧めで、自分も町会議員に立候補することにしたのです。東京以上に田舎は不景気。仕事などありません。そこにいるのは「老人と猫」ばかり。しかし町政の仕事はあります。親を見ていたし、大学では政治学を専攻したこともあり、立候補を決めたのです。

2年後、結果は落選。理由は若すぎること。田舎の選挙では、必ずしも若いことが強みではありませんでした。しかし選挙運動中に、あることに気付きました。一軒一軒、町の人を訪問しているうちに、相続や税金のことなど、人々が法律で困っていることに気付きました。そこで次の選挙までの間、法律家になるための勉強をはじめます。

昼はバイトと選挙運動をしながら、夜は勉強です。そして翌年、行政書士を受験。しかし不合格。さらに次の年も不合格。そして選挙に再出馬するも、再度落選。翌年、今年こそ行政書士に通るだろうと受験しましたが、またしても不合格。

彼は落ち込みました。両親、兄弟が言いました。「政治にこだわらなくてもいいんじゃないか?行政書士もそうだ。どんな職でもいいから、一度、ちゃんと就職してはどうか」もう30代に入っていました。家族は、このままでは彼の人生が駄目になると思っていました。

就職先を探しましたが、田舎では簡単に見つかりませんでした。ハローワークに行って、求人広告に応募しましたが、それらも不採用ばかり。「ちゃんと働いた経験がない」「年を取り過ぎている」と言われました。選挙の時は若すぎると言われ、就職の時は年を取り過ぎていると言われ、自分でも苦笑しました。「もうどんな職業でもいいから、仕事をくれ」と思っていた時、ある工務店が採用してくれました。彼は喜びました。

しかし、ラクな仕事ではありませんでした。毎朝、4時に起きて8時には遠く離れた現場に行かねばなりません。しかも彼に向いている仕事ではありませんでした。30代の新人にして、現場の知識はゼロです。年下の先輩たちからバカ扱いされました。耐えられなくなり、この仕事も1年で退職。

「ここまで色々やってきたのに、それでもNOを言われるなんて、神様はオレに何をさせたいのか?」と、真剣に悩みました。

いままでオレは、親や周囲の期待に応えようと頑張ってきた。でも、その生き方の結果がこれだ。これまでオレは、本当に何がやりたいか、真剣に考えただろうか?天職が見つからないのは、行動量が足りないからだと思っていたけれど、これほどやっても落選、不合格、バカだ、アホだと否定され続けてきた。天職でないものはわかったが、果たして天職が何かは、まだわからないままだ・・・。

ある日、母親から言われました。「あんた、本当は何がやりたいの?」心配する母親の手前、何か答えなければと思ったのでしょう。つい、言葉が出ました。

「怒るかもしれないが、老人相手の按摩やマッサージの仕事をしてみたい。選挙運動中、町の老人の話し相手になって、いつも感謝されていた。オレも楽しい時間だった。これが天職かもしれない」しかし答えた後で、冷静に自分の性格を振り返ってみると、当たっているように思えました。自分でも驚きでした。

彼は不器用だけど、やさしい性格でした。お年寄りに向き合う仕事は向いていました。そして、この時が初めて、「老人と猫ばかりの町」を違う目で見た瞬間でした。田舎では都会のような仕事はないけれど、田舎には田舎の仕事があると思ったのです。「老人ばかりで仕事がないのではなく、老人相手の仕事をすればいい」と。リフレーミングが起きた瞬間でした。そこで起きている現象は変わらないけれど、それにどのような意味付けをするかで、可能性が見えたのです。

今、彼は整体院を開業しています。そのために半年間、整体師の学校に通いました。そこで知り合った友人と一緒に開業したのです。政治は当選しなければ出来ない仕事です。国家資格も合格しなければ出来ない仕事です。しかし、今回は「誰かに認めてもらわなくても出来る仕事」を選びました。そして毎日、お年寄りの話を聞きながら、身体を癒し、「ありがとう」を集めています。ここまで来るのに、16年かかりました。しかし、後悔はしていない。彼にとってはリンカーンの大統領就任に近い話かもしれません。

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