ダイバシティ(多様性)の体験談

配信日:2014年9月03日

ダイバシティ(多様性)。このテーマを考える時、私はいつも外資系での経験を思い出します。特に洋酒会社にいた時は強烈でした。外国人の同僚や上司との仕事を通じて「自分の狭い世界観を自覚する」ことが多かったものです。私のいた会社には異質なものを受け入れる寛容さ、また「良いものは良い」と素直に認め、すぐさま取り入れる素直さがありました。そのようなものが経営、またはブランドをより豊かなコンテンツにしていくのだと思います。今回はそんな私の思い出話を紹介しましょう。

パイパーエイドシック(シャンパン)のグローバルミーティングでローマに行った時のこと。15か国くらいから参加したブランド・マネージャーたちとのミーティングを終えて全員で街に繰り出しました。そこで奇妙な飲み方を見ました。シャンパンの小瓶に直接ストローをさして、まるでソフトドリンクを飲むような感覚で地元のイタリア人たちが楽しんでいたのです。イタリアのブランド・マネージャーが教えてくれました。「ミラノで流行っているスタイルよ。元々ファッション・ショーのモデルが始めた飲み方なの。ストローなら口紅が落ちないから」

私は雷に打たれたような衝撃を覚えました。当時、パイパーエイドシックは日本市場でまったくの“鳴かず飛ばず”で、どのようにリブランディングをしたものか悩んでいたのです。これを日本に持ち帰ってはどうか。パイパーエイドシックは後日、このスタイルに「ベビーシャンパン」というコンセプトを付けてリブランディングを達成しました。

フランス・ロワールで行われたコアントローの会議。その時の成功事例の発表者は私でした。当時、コアントロー(オレンジ・リキュール)は「飲むものというよりもスイーツの素材」と認識されていました。もちろん、バーテンダーもマルガリータなどの有名なカクテルに使いますが、消費者にはスイーツのイメージが強かったのです。

これは世界的にも同じでした。我々の課題は「ドリンクイメージを強化すること」でした。当時、コアントローは部下のアシスタント・マネージャーが担当していました。彼女が考えた戦略は「スイーツのイメージを強みにしたカクテルの開発」でした。そこで“コアントローショコラ”という、ホットチョコレートにコアントローを加えたホット・スイーツカクテルを開発しました。

もともとコアントローはスイーツの素材として認知されていました。よってスイーツの延長線上のようなカクテルを提示することで、徐々にドリンク・イメージに移行していく作戦でした。チョコレートとコアントローは相性抜群です。うまくないわけがありませんでした。このコアントローショコラを新潟県・苗場スキー場のゲレンデにブースを作り、コーヒーによくある蓋付きペーパーカップ・スタイルで提供しました。マイナス零度を下回る雪の降るゲレンデで熱々の甘いホットカクテルです。驚くほど大量に売れました。苗場の来場者の70%は東京方面からのお客さんです。思い出深いホットカクテルとして認知してもらい、そのまま東京に帰った後もバーで飲んでもらう施策も用意していました。約400店舗のバーで新メニューとして取り扱ってもらいました。

このような活動をグローバル・ミーティングの場所で発表しました。大いに評価してもらい、いくつかの国でコアントローショコラが導入されました。ちょうど、パイパーエイドシックでイタリアのアイデアを持ち帰ったのと同じ構造です。「海外のスキーリゾートで日本発のブランド・キャンペーンが実施される」非常に愉快でした。

日本企業でも多様性の気づきをもらう経験をさせてもらいました。当時、私の会社はアサヒビールと販売契約を結んでいました。マーケティングカンパニー制です。ブランド戦略やマーケティング戦略の構築(プランニング)は私たちのような日本支社が行うのですが、販売活動、営業活動はアサヒビールのような日本企業にお願いするやり方です。

アサヒビールの洋酒事業部の方々と仕事をするようになり、私は「本物の日本のエクセレント・カンパニー」がどのようなものかを学びました。いわずと知れた会社です。営業戦略から戦術への落とし込み、営業マンの行動管理、そして業績への徹底したこだわりとレビューはさすがでした。

彼らの素晴らしさは「徹底」という二文字に集約されると思いました。計画したことをやり切る徹底、または「なにがなんでも達成するのだ」という徹底。これを彼らは「チャレンジ」と呼んでいました。私には「チャレンジをキレイごとにしない徹底」と映りました。

これまでグローバルな環境で外国人と一緒に働いてきて、そのキーワードは多様性でしたがアサヒビールの徹底もまた、私には多様性の一つに見えました。そしてそのあり方に、私は久しく忘れかけていた「日本人の勤勉さ」をみました。外国人の多様な文化的背景を受け入れる寛容さと、日本人の一枚岩になって目標を達成していく勤勉さ。このどちらもが私には価値ある多様性でした。これ以外にも思い出深い話はあります。考えてみれば色々な多様性に触れることができました。これも感謝ですね。

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