配信日:2015年01月21日
先日、山手線のなかで「刺さる広告」を見ました。確かライオンさんから発売されている「ストッパ」という下痢止め薬の広告でした。受験生に向けて「受験会場で“まさかの腹痛”に襲われたらこれをどうぞ」というメッセージです。ストッパは水無しで飲めるものらしく、その場で一錠飲めば腹痛は収まると。これは効きそうです。もちろん広告の話です。
私の記憶では、ストッパは日頃、「通勤電車のなかで腹痛を感じたらどうぞ」という内容で、サラリーマンを対象にした広告だったと思うのです。しかし受験シーズン到来の今、キャンペーン・ターゲットを「受験生」に絞り、広告表現も“験(げん)を担ぐ”ものに変更。それこそブランド名の「ストッパ」も「ス突破」と受験生のこころをくすぐるものにして展開。キャラクターで使われていた「昇り龍」「下り(くだり=腹がくだる)龍」も笑える。なかなか秀逸なキャンペーンではないでしょうか。
この広告が「刺さる広告」だと思われるのは、誰に向けたコミュニケーションか、非常に明快だからです。きっと受験生は「あ、俺のことだ」と自分ごと化できるでしょう。そう思わせるアプローチとして、ターゲット消費者を「不」という切り口で特定しているところが素晴らしい。この場合は「腹痛で受験を失敗したくない受験生」です。受験会場で下痢をもよおすなど、まさしく「不安」「不都合」「不条理」です。そのように「不」の切り口でコミュニケーション・ターゲットを特定しているからこそ、その広告を目にする者は「あ、これは私のことだ」と気づけるわけです。これを心理的セグメンテーションと呼びます。
世の中の広告(またはマーケティング)を見ていると、まだまだデモグラフィックなセグメンテーションが圧倒的です。例えば年齢・性別・年収・職業などでターゲット消費者を特定するやり方です。これはこれで良いのでしょうが「刺さる広告」を作るには、やはり心理的セグメンテーションのほうが優れていると思われます。例えば30代OL(年齢×性別×職業)をセグメンテーション基準としても、そのセグメントのなかには様々な「不」を抱えているグループ(ニーズの束)が存在していて、結局、誰に向けたコミュニケーションなのか曖昧になるからです。
例えば「みんな」に向けたコミュニケーションは、もはやコミュニケーションとして成立しないのと同じく、「誰にとってのメッセージなのか」をはっきりと決めることが大事です。そのわかりやすい手法として「不」で特定化するものがあると思われます。
実は「ターゲットを絞り込む」とはこのようなことを言うのではないでしょうか。どのような「不」を持つ人たちなのかを広告表現の前にしっかりと決めること。その不を解消する提案は、そうではない広告よりも具体性が高いし、消費者のほうでも「自分ごと化」できるわけです。伝わるコミュニケーションが始まるのはここからですね。