デザイン、独創性、クリエイターからの説明の問題

配信日:2015年8月27日

2020年の東京オリンピック。新国立競技場のコストやロゴマークのパクリ疑惑など、なにかと問題の多い状況で「世界は冷ややかに見ているんだろうな」と思います。まあこれまでのオリンピックも開催までに何も問題なく進んだなどということはなかったわけで、広い視点に立てば想定内なのですが、それにしてもコスト管理のずさんさ(しかも桁違いの)、誰も主体的にマネジメントしない責任所在の不明確さ、コンペの不透明さ、デザインなどアウトプットのチェック機能の甘さは指摘されてもしかたないものがあるでしょうね。

ロゴでもめているデザイナー氏も、これだけいろいろな疑惑事例が出てしまうと、もう何を言っても言い訳にしか聞こえなくなっています。「独創的」「クリエイティブ」とは何かという抽象度の高い議論は無意味で、白か黒かのみが問われています。(世間はもう答えを出している)

日頃、クリエイターの方々と仕事をしていると「彼らのプレゼンをどのように受けるか」の術を身につけることになります。ロゴデザインやコピー、ネーミングなどはその最たるものです。

日産のTIIDA(ティーダ)というブランド・ネーム。このブランドはかつての「サニー」の後継機とのこと。日産のマーケターはこの新機種を出すに当たり「サニー」という名前をどこかに残すようクリエイターに依頼しました。そして出てきたのがTIIDA(ティーダ)。TIIDAというのは琉球語で「太陽(サニー)」という意味らしく、それで課題を解決できるというわけです。後日、その説明を聞いて「なるほど」と思いましたが、ここにクリエイティブの落とし穴があります。

それは「説明されなければ伝わらないコミュニケーションになっている」ということ。少なくとも琉球語の「てぃーだ」という言葉が太陽を意味するとしらなければTIIDAとサニーは全く別のもので、ましてやTIIDAからサニーを連想できる消費者はいない。

つまりプレゼンテーション時に説明を要するクリエイティブは実際のコミュニケーションで複雑骨折を起こす可能性があるのです。同様に説明しすぎるクリエイターに同情もします。それは説明しなければクライアントが納得できない場合が多いから。クライアント側もロジカルな発想や批判的精神を一旦忘れて、自分の「平素の感性」でクリエイティブに向き合うことが大事です。

良いクリエイティブが良い理由は「説明しなくても良さが直観的に伝わるから」なのですが、そのようなクリエイティブを作れるのは日本でもごくわずかです。しかし本物のクリエイターと仕事をすると、彼らの仕事はほとんど説明をしない。例えばデザインでもコピーでも「紙にポンッと描かれている」「紙に一行」ばかりです。そのこころは、説明を書かないことで逆にクリエイティブがクライアントのなかで理屈を超えた理解を促し、それによってクリエイティブに命が吹き込まれるようなところがあるからです。優秀なクリエイターはそれを知っている。結果、それが人のこころ(消費者を含めて)をビビッと動かすクリエイティブなのです。

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