10年経った現在であればもっと重要なことを学べるかもしれない。
配信日:2017年10月05日
ワシントンポスト紙の社会実験として有名なものに「ジョシュア・ベルの実験」があります。2007年のことなので、もう10年も前になるのですが、この話はいまのウェブ・マーケティング主流の時代にあって、当時とは別の見方ができるように思います。
この実験、朝の通勤ラッシュ時にワシントンDC駅構内で、ジョシュア・ベルという世界的に有名なバイオリニストに、一介のストリートミュージシャンに扮してもらって演奏をしたら、一体、どれくらいのひとが足を止めるだろうかというものでした。フェイスブックでも多く流れてきたのでご存知のひとも多いでしょう。
実験の目的は「人びとは名声や肩書、コンサート会場などの舞台なしに芸術の真価を認められるか」を検証するというものでした。路上で43分間、バッハを真剣に弾くジョシュア。そしてその前を通り過ぎたひとの数、おそらく1000人以上。ジョシュアの演奏に興味を持った人は・・・わずか7人だったという話です。これに対してワシントンポスト紙は「我々は(ストリートミュージシャンの演奏という)先入観が邪魔をして、芸術の真価を認めることは難しいのではないか。日常でも色々な先入観によって、本当に美しいものに気づけないのではないか」と結論づけています。しかしそれから10年経った現在であれば、マーケターはこの実験からもっと重要なことを学べるかもしれません。
先日、電通デジタルの部長とたまたまこの話になりました。彼が言うには、「あの実験はいまのウェブ環境のなかでモノを買ってもらうことの難しさに繋がるように思う。気づけなかった通行人が悪いのではなく、そもそも興味・関心のない人たちに一方的なコンテンツを提示しても誰も相手にしないのです」。ジョシュアがスルーされた理由は、朝の通勤ラッシュならぬ圧倒的なトラフィックのウェブ環境で、製品やお店がどれだけ声高に叫んでもスルーされる状況に等しいというわけです。
マーケティングでは伝統的に「正しいターゲット、正しい場所(メディア)、正しいメッセージ」というものを三位一体としてきました。これはいまでも不変だと思いますが、ウェブ環境のなかでは「正しいターゲット」とは興味・関心をベースに定義され、正しい場所とは、その興味・関心を表現する検索ワードに変換され、正しいメッセージとは、それに十二分に応えるだけの深い専門的な情報(コンテンツ)として届けられるのです。そしてコンテンツはメーカーからの製品情報を一方的に述べるものではなく、むしろユーザーの立場でそのベネフィットが解決策として伝えられなければなりません。いまのように顧客が自分の疑問、興味・関心についてすぐに検索できるような環境では、最大公約数的なコミュニケーションはいとも簡単にスルーされてしまうのですね。