メキシコ国境の壁
配信日:2019年1月23日
壁の費用6,200億円をめぐって連邦政府の一部閉鎖が過去最長になっているとのこと。トランプ氏が大統領選で壁の話をした時は荒唐無稽に感じたものですが、ここまで壁への執着と激論があるというのは「ちょっと立ち止まって考えてみる」価値があるかもしれません。
「不法移民の犯罪」「不法移民がアメリカ人の職を奪っている」というのがそもそもの発端だったと記憶しています。これがトランプ支持者の聴きたいことで、そのために壁を作ると。既に一部、壁は建設されているのですが、それを国境全域に渡って建設するというのです。
「壁など作っても不法移民はトラックの荷台に隠れてきたりするし、薬物などは必ずしも壁を越えてくるわけではないから効果ないよ」という意見もあるようですが、私は意外と効果があると考えています。それは秦の始皇帝が万里の長城を作り、北方民族の匈奴を阻止したころからある程度証明されていると思うのです。もっとも壁を乗り越えた匈奴もいないわけではなかったのですが、その後も長城は伸び続け、最終的には明の時代まで、その距離は6,300キロにも上り、「宇宙から肉眼で見える唯一の建造物」となったのです。効果のないものを1500年以上も作り続けるだろうか。
冷戦時代、ドイツは「ベルリンの壁」で東西に分断されていて、そこでも行き来はなかったわけです。面白いのは、メキシコの壁に関してドイツ人はあまり文句を言わないことです。メルケル首相もそうで、トランプが移民の受け入れに否定的なことには批判的ですが、壁建設については「どうぞお好きに」というふうです。壁の効果に関してドイツ人はよくわかっているのではないか。そうやって別の国を考えてみると、世界には意外と「物理的な壁」が他にも存在するのではないでしょうか。
私は不法移民という存在に対しては否定的です。しかし「不法移民の犯罪」というのはアメリカ人に比べて、本当にそうなのだろうかという疑問はあります。というのも、そもそも彼らはお金を稼ぐために法を犯してまで入国してきたわけで、もし犯罪を働き強制送還になどなってしまったら元も子もない。なんのためにリスクを冒してアメリカに来たのか。稼ぐことが目的なのでしっかり稼いで早く国に帰りたいのではないかと思うのです。
そう考えると、不法移民の問題はやはり「アメリカ人の仕事を奪う」のほうでしょう。安い賃金でアメリカ人がやらないような仕事をする。しかしこれも社会のニーズがあるようです。英国でも同じ問題があって、農場など低賃金で働くのは東欧からの移民だと聞きました。彼らはおそらく合法的な移民でしょうが、「仕事を奪う」という点ではやはり社会問題になっているようです。アメリカもしかりで、つまり不法移民を求めるひとや、彼らがいなくなると困るひとも一方でいるわけです。「壁」にレッテルがあるように「不法移民」にも一方的なレッテルがあるのかもしれません。
ただし不法移民が税金を払わず、アメリカ社会のインフラにタダ乗りしている問題はあるでしょう。時には犯罪もやるかもしれない。また摘発のために警察の人件費や収容所での生活費、法的な手続きやそれにかかわる諸経費なども税金で賄われるわけで、本当はそのような「経費の現状および未来に渡る総額」と「壁のコスト6,200億円」を比べて、どちらが見合うかという議論をもっとしたほうが良いのではないかとも思います。