今もラ・ボエムで、こうしてメルマガを書いていますが、今日が最後です。

配信日:2013年5月20日

以前、グリコのマーケティング・マネージャーの方とお話をしたことがあります。「プッチンプリンの売上をどうやって増やしたら良いか?」

ご存知のように、日本のスイーツはここ数年で恐ろしく美味しくなりました。消費者の舌は肥え、コンビニのスイーツですらかなりのレベルです。そうした中で昔からある、このプリンをどうやって売るかは、確かに大変だし興味深いものでした。

プッチンプリンを売るために、彼は色々な施策をやっていました。それが何かはここでは詳しく書きません。それなりに成果が上がっていました。私が面白いなと思ったのは、「何故、この飽食のスイーツ市場でプッチンプリンのような昔からある子供向けのものが売れるのか」でした。

一言で言うと「思い出」。これこそがプッチンプリンが売れる理由です。消費者はプリンを買っているのではないのです。子供の頃に食べた思い出を買っている。子供の頃に風邪をひくとお母さんが買ってくれた、あの思い出です。どんなスイーツが発売されようと、そんなことは関係ないのです。思い出こそがプッチンプリンのブランド資産であり、消費者にとっての買う理由なのです。

あるイタリアン・カフェの話。私がよく週末にモノを書くために利用するカフェがあります。代官山ラ・ボエム。ここは28年前、まだイタリアンが日本人にとってナポリタンとミートソースくらいの認識しかなかった時代に、いま私たちが普通に食べている「パスタ」という概念を紹介した店。店内も、音楽や装飾品に至るまで、いわゆる劇場型で、本当にイタリアにいるような雰囲気を初めて紹介しました。当時、こんな店は日本になかったんじゃないかと思います。

事務所からごく近所にあり、朝方4時までやっているので、私自身、この店には大いにお世話になりました。私がコンサルティング事務所を開業してから11年間もです。疲れて帰った仕事の後、夜中にワインを飲みに行ったり、週末にビールを飲みながらメルマガを書いたり、クライアントさんとの簡単なミーティングもしましたし、「ブランドまつり」の第一回もここでしました。

今もラ・ボエムで、こうしてメルマガを書いていますが、今日が最後です。今日で閉店。店を閉めるのです。理由は店舗の老朽化。28年の歴史に幕を閉じます。

私のみならず、今日はこの店を愛していた馴染みのお客さん(多くは私と顔なじみ)が、最後のパスタを食べに来ていました。みんなが同じように言いました。「さみしいね」

この店もやはり「思い出」が詰まっています。世の中を見回せば、美味しくて手頃なイタリアンなど、どこにでもあります。「俺のイタリアン」などはその典型でしょう。もちろん私も他に美味しいイタリアンの行きつけはあります。しかしこの店には美味いかどうかを超えた思い出がありました。まったく別のロジックとも言えます。これがこの店のブランド資産であり、地元のひとが愛する理由なのですね。

ブランド(または人)がどれほど愛されていたかは、それとの別れの時にならないとわからないものかもしれません。ブランドとの関係性に愛おしさを見つけ出す瞬間です。ひとは楽しかった思い出のみならず、辛かった思い出すら愛せるもので、別れの時には、たいていはすべてを受け入れ、良い思い出として愛おしみます。特に、良い思い出にフォーカスする時、強い絆にも似た関係性を見つけるように思います。良いブランド(人)だったとなごみ惜しむのです。思い出とは大きなブランド資産なのです。

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