【2026年版】ブランドマネージャーの「仕事のOS」刷新術:AIを導入しても楽にならない理由とは?

【2026年版】ブランドマネージャーの「仕事のOS」刷新術:AIを導入しても楽にならない理由とは?

「本記事はブランドコンサルタント・水野与志朗が、実際の現場でのコンサルティング経験に基づき執筆したものです。

現場のリアル:最新ツールを導入したのに、なぜ仕事は重くなるのか

ブランドコンサルタントとして多くのクライアント企業を訪ねる中で、2026年現在、私はある「奇妙な光景」を頻繁に目にします。それは、最新の生成AIやSaaSなどDXツールを導入したはずの現場で、肝心のブランドマネージャー(BM)たちが、以前よりも忙殺され、疲弊している姿です。

導入は進んだ、しかし仕事は止まっている

統計を見れば、大手企業でもAI導入は進み、今や3社に2社は何らかのツールを手にしています。しかし、残りの3社に1社はいまだ導入に足踏みし、導入済みの企業であっても、その多くが「ツールを入れただけで、仕事の進め方が止まっている」という停滞感の中にいます。私がコンサルティングの現場で耳にするのは次のような悲鳴です。

  • 「AIでバナー案を100案出せるようになったが、結局どれを選ぶべきか迷う時間が増えた」
  • 「DXで数値がリアルタイム化した分、上層部からの細かい突っ込みが増え、その報告書作成に追われている」

本来、ブランドマネージャー(BM)をルーチンワークから解放するはずの技術が、逆に管理コストや調整業務を増大させている。これが現状です。

「仕事のOS」が昔のまま

なぜ、こうした逆転現象が起きるのでしょうか。それは、ツールという「最新アプリ」を動かそうとしているブランドマネージャーの「仕事のOS(考え方や役割分担)」が、昔のままアップデートされていないからです。実際、多くの日本企業では、いまだに「作業量」や「どれだけ緻密な資料を作ったか」が評価される旧来のOSが根強く残っています。

  • SNS運用やSEO対策においても、AIを使って「効率化」するのではなく、AIを使って「もっと大量に、もっと細かく作業を増やす」方向へ舵を切ってしまう。
  • 戦略を練る時間よりも、目に見えるアウトプット(WHAT)を出すことで「仕事をした気」になる。

これでは、最新のスマホに旧時代の動作環境(OS)を入れているようなものです。アプリはエラーを起こし、動作は重くなり、効果は出ません。

ブランドコンサルが見る「課題の核心」

2026年、私が現場で感じる最大の課題は「AIとの付き合い方」です。AIという強力な武器を手に入れたことで、皮肉にも「考えないブランドマネージャー」が増えているように思います。「AIが出したから」という理由で施策を決め、本来ブランドマネージャー(BM)が担うべき「なぜそれをやるのか」「どうやって顧客に届けるか」という戦略の核心が空洞化していく。つまり「AIと壁打ちをする前の思考プロセス」が欠落しているのです。

しかし、これはブランドマネージャー個々人の問題というよりは、多くの日本企業が抱える「持病」のように思います。多くの日本企業において、ブランドマネージャーの評価軸は、いまだに「どれだけ(HOW MANY)具体的なアウトプットを出したか(WHAT)」という点に置かれがちです。新製品のサンプル、目を引く広告バナー、精緻な調査報告書。こうした「形」が見えることで、チームも上層部も「仕事が進んでいる」という錯覚、すなわち「WHATの安らぎ」を得てしまう文化が日本企業にはあるように思います。この安らぎこそが、ブランドマネージャーの成長を止め、安易なアウトプットの数に満足してしまう最大の要因となっています。

臨床事例:戦略なき「WHAT」の連打が招く「学ばない組織」

ある通販化粧品の数年にわたる苦闘は、まさに「作業中心のOS」が引き起こす典型的な課題を映し出しています。当初、折込みチラシの反応が悪化する中で、クリエイティブの微調整で一時的にCPAを改善させました。しかし十分ではなかった。そこで、さらなる拡大を狙い、誰もが知る有名女優を起用しました。「有名な人を起用すれば反応があるはずだ」という、戦略なき「WHAT」への期待です。しかし、有名女優の起用による目に見えた効果は得られませんでした。ここで恐ろしいのは、効果が出なかった理由を「作戦のミス」ではなく「タレントの適性」の問題として片付け、深い振り返りもないままキャンペーンを終了させたことです。

この事例の核心的な問題は、一時的なCPA改善の結果に「なぜそのターゲットに響いたのか」という本質的な洞察を欠いたまま、有名女優を使えば効果は絶大と「次のWHAT」に飛びついたことです。そしてこの段階でも「なぜそのタレントなのか」「どのような課題を解決するための広告なのか」という前段の設計(WHY/HOW)が不在のままでした。結果、戦略がないからこそ、失敗しても「次は何をしようか」という新しいWHAT探しが始まるだけで、組織に知見が蓄積されていないのです。

「とりあえず作る」という逃避

この事例は特殊ではありません。広告だけでなく製品開発でもECサイト運営でもみられます。多くの現場で、戦略の不在を埋めるために「物質的なアウトプット」が利用されています。「SNSで話題のタレントを使えばいい」「トレンドの媒体に広告を出せばいい」といった手段の目的化は、思考停止への逃避に他なりません。

2026年の今、こうした定石的な施策やタレント選定のシミュレーションはAIによって瞬時に実行可能です。つまり、根拠なき「とりあえずのWHAT」の価値は、完全に消滅したと言っても過言ではないでしょう。

アウトプットの前提「どのように行うか」「なぜか」を考える

今、ブランドマネージャーに最も求められるのは、安直な結論(WHAT)に飛びつき、手を動かして安心したいという衝動を抑えることです。

  • 「いま解決しなければならない課題は何か」
  • 「それを最も上手く解決する方法は何か」
  • 「どのように行うのが最適か」
  • 「なぜか」
  • 「結果、この施策(WHAT)が良いのではないか」

こうしたWHAT(施策)以前の問いに向き合い、「物質的なアウトプット」を出す前に「思考の密度」を高めること。目に見える形にする前に、目に見えない戦略(WHY/HOW)を固めること。これこそが、AI活用が一般化するであろう2026年を生き抜くための仕事の技術なのです。

AIが生んだ「余白」の正しい使い道

遠い昔、ブランドマネージャー(BM)のデスクは、電話帳のように分厚い市場調査の集計データや競合分析の資料で埋め尽くされていました。仮説を一つ立てるのにも数日を要し、データ整理だけで1週間が過ぎることも珍しくありませんでした。いまもそういう風景を目にすることもあるかもしれません。しかし今後、その光景は一変するでしょう。AIが分析や下準備を数秒で終わらせてくれるようになった今、私たちの手元にはかつてないほどの「余白」が生まれています。

この余白を、再び「別の作業」で埋めてしまうのか。それとも、ブランドの根幹を揺るぎないものにするための「判断」に充てるのか。ここに、新旧のOSの決定的な差が現れます。

臨床事例:セブン&アイ・ホールディングスの「業務の棚卸し」

2025年、セブン&アイ・ホールディングスが示したアプローチは、まさに「新OS」への転換を象徴するものでした。彼らはAIを単なる効率化ツールとして導入したのではなく、マーケティング業務そのものを徹底的に棚卸ししたのです。

セブン&アイ・ホールディングスでは、生成AIを単なるツールとして導入するのではなく、マーケティング業務そのものを棚卸ししました(出典:日経クロステック 2025年3月25日)。そのうえで、「この作業はAIに任せられる」「ここは人が判断すべき」というように、タスクごとに役割を整理しました。

たとえばメールマガジンのコピーライティングをAIに任せた結果、外部委託費を約8割削減しています。現在は、カスタマーサービスや店舗支援などにも活用を広げています。重要なのは、「AIを入れたこと」ではなく、「仕事の進め方を先に整理した」ことです。

「戦略・作戦」が真の競争力になる

2026年のブランドマネージャー(BM)にとっての真の競争力とは何か。それは、アウトプットとしてのWHAT(製品や広告)を作る力ではなく、AIという強力なエンジンに「何を、どのような戦略に基づいて考えさせるか」という、インプット以前の「設計図」を描く力です。つまり「AIに何を投げ込むか」で勝負が決まるのです。

言わずもがな、AIの普及により、誰もが瞬時に一定レベル以上のアウトプット(WHAT)を手に入れられるようになりました。しかし、その結果として起きているのは「凡庸な正解」の氾濫です。ブランドコンサルとして現場を俯瞰して思うのは、ブランドマネージャー(BM)に必要なのは「AIを使いこなす操作スキル」ではなく、「解くべき課題は何かを定義し、勝つための作戦を立てる能力」だということです。

例えば、売上減という問題を前に、表面的な売上減ではなく、顧客の心理変容のどこにボトルネックがあるのかを突き止める(課題の明確化)。そして競合がひしめく中で、あえてどの領域を捨て、どこに資源を集中させるかの筋道を立てる(戦略・作戦の立案)。

これらが定まっていないままAIを回しても、出てくるのは「どこかで見たような施策」の羅列に過ぎません。AIに「何を考えさせるか」という前提条件の設計こそが、ブランドマネージャー(BM)の付加価値といえるでしょう。

これまでの仕事のOSでは、情報収集や資料作成といった「作業」に多くの時間が割かれてきました。しかし新しいOSでは、それらはAIに任せ、人間は以下の「判断」に全神経を注ぐこと。

「この市場環境と自社の強みを掛け合わせたとき、AIにどのような角度からソリューションを考えさせるべきか?」

この「問いを立てる力」こそが、AI時代のブランドマネージャー(BM)の重要な仕事です。AIが短時間で膨大なアウトプットを出せるからこそ、その大元となる「戦略の筋の良さ」が、そのままブランドの純度や競合優位性に直結します。

「意思決定」は、納得感を作る対話へ

また、この「戦略・作戦」を練るプロセスは、もはやブランドマネージャー(BM)一人の頭の中で完結するものではありません。AIが提示する複数の作戦案を叩き台にしながら、「私たちのブランドが取るべき道はどれか」をチームやステークホルダーと議論し、組織としての「合意形成」を行っていくこともブランドマネージャー(BM)の重要な仕事です。これはAIでは代替できない、人間のみが行える仕事です。

作業(WHAT)に追われていた時間を、この「作戦会議(戦略立案)」へとシフトさせること。過渡期を抜けて新しいステージへ進むための、ブランドマネージャーの真の仕事といえます。

結びに:地に足をつけて、未来へ

AIは私たちの仕事を奪うものではなく、私たちが本来向き合うべきだった「戦略の構想」という、最も人間らしく、かつエキサイティングな仕事に立ち返らせてくれるパートナーです。

物質的なアウトプットを急ぐあまり、戦略を置き去りにしてしまう。そんな長年の課題を、AIを使うことで解決するチャンスが、今まさに訪れています。 目の前の作業(WHAT)を一度止め、AIに何をインプットすべきか、その「作戦」をじっくりと練り直すこと。その「思考の深さ」こそが、2026年という時代において、あなたのブランドを唯一無二の存在へと導く仕事技術となります。

書籍紹介:ブランドの未来を拓くすべての方へ

本コラムで説いた「ブランドマネージャー」について、または「戦略・作戦の重要性」をより深く、かつ体系的に学びたい方は、ぜひこちらの書籍を手に取ってみてください。

AIが普及する以前から変わらない、ブランドマネジメントの本質。それは、一人の人間が強い意志を持って旗を振り、組織の「OS」そのものを書き換えていくプロセスに他なりません。 本書は、多くの日本企業が抱える課題を突破し、ブランドを再生させるための「真の実務」を説いた、ブランドマネージャー必読の一冊です。

ブランド・マネージャー たった一人のBMで会社がよみがえる

『ブランド・マネージャー: たった一人のBMで会社がよみがえる』
(水野与志朗 著 / 経済界)

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執筆者プロフィール

水野 与志朗(Yoshiro Mizuno) ビーエムウィン株式会社 代表取締役 / コンサルタント

10冊の著書を出版している。味の素ゼネラルフーヅ(現:味の素AGF)でのブランドマネージャーを皮切りに、日欧米企業での主要ブランドの再構築を成功させキャリアを積む。2002年に最初の著作「ブランドマネージャー(経済界)」を出版し独立。2005年にビーエムウィンを設立。以来、消費財メーカーを中心に300以上のブランド・プロジェクトにかかわる。主な著書に「ブランドマネージャー(経済界)」「戦略的パブリシティ(オーエス出版)」「THE BRAND BIBLE(総合法令)」「ブランド戦略実践講座(日本実業出版)」「相談からはじまる営業ならこんなに売れる(同文館出版)」などがある。

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