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コーポレイトブランディングとは?

コーポレイトブランディングが注目されるようになった経緯

企業ブランドの価値は、かつて製品やサービスの品質によって決まると考えられていました。しかし、消費者をはじめとするステークホルダーの意識の変化、そしてデジタル化の進展により、企業そのものの「人格」や「社会的役割」がより重視されるようになってきました。

特に2000年代以降、SNSの普及によって企業の透明性が問われ、不祥事が瞬時に拡散されるリスクが高まっています。このような状況の中で、単なる製品ブランドだけではなく、「この企業が何を考え、社会にどのように貢献しているのか」が企業価値を左右する時代へと移行しました。

また、近年、株主や社会の関心は多様化し、企業もそれに対応する必要が高まっています。ESGへの注目は依然あるものの、反ESGの動きや資本効率向上を求める声も強まっており、単なる理念の発信ではなく、事業成長と社会的価値の両立を示すことが重要になっています。

コーポレイトブランディングとは

コーポレイトブランディングとは、「この会社がどんな考え方を持っているか、社会にとってどんな存在なのかを分かってもらえるような企業の人格を作ること」です。単なる新ロゴデザインやコーポレイト・スローガンの制作・発表にとどまらず、企業の理念、価値観、行動すべてを再設計し、ステークホルダーとの関係を強化するための戦略的アプローチです。

企業ブランドが強固であればあるほど、消費者・社員・投資家との信頼関係が築かれ、長期的な成長が可能となります。つまり、コーポレイトブランディングとは「この企業だから選ばれる理由」を明確にし、それを社内外に浸透させるプロセスであるといえます。

コーポレイトブランディングのメリット

merit 1
顧客の信頼とロイヤルティ向上
顧客の信頼とロイヤルティ向上
企業のブランドが確立されていると、顧客はその企業に対して信頼を持ち、長期的な関係を築きやすくなります。価格や機能ではなく、「この企業だから買う」という理由が生まれることで、価格競争に巻き込まれることなく安定した収益を確保することができます。
merit 2
人材採用、離職防止、社員のエンゲージメント向上
人材採用、離職防止、社員のエンゲージメント向上
「この会社はキャリアを積むに足る場所だ」「この会社で働きたい」と感じる人材が集まりやすくなります。結果として、採用の効率が向上し、社員のモチベーションも高まります。
merit 3
投資家やパートナーからの評価向上
投資家やパートナーからの評価向上
企業のブランド価値が高いと、投資家やビジネスパートナーからの評価も向上します。特にESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家にとって、ブランドの信頼性は投資判断に影響を与えます。
merit 4
競争優位性の確立(価格競争からの脱却)
競争優位性の確立(価格競争からの脱却)
価格や技術の優位性よりも、ブランドの強さが差別化要因となるため、競争が激しい市場でも安定した立場を維持することができます。

コーポレイトブランディングのプロセス

コーポレイトブランディングは、以下のステップで進めることが一般的です。

プロセス
1

現在の企業の社会的評価の分析

まずは社内で、これまで企業がもってきた価値観のリマインドを行います。続いて社会からのブランド認知・理解・好意などを、社外調査を通じて棚卸します。そしてコーポレイトブランドにまつわる課題を抽出します。

プロセス
2

ブランドビジョンと戦略の策定

あらためて企業の価値観や理念を整理し、目指すべきブランドビジョンや方向性を決定します。経営戦略との整合性も確認します。

プロセス
3

ブランドメッセージとアイデンティティの構築

ブランドの核となるメッセージ(ブランドメッセージ)を策定し、社内外に伝えるためのストーリーを作成します。コーポレイトロゴ、タグラインまたはコーポレイトスローガン、ビジュアルデザインなどのブランド要素を見直します。

プロセス
4

社内浸透

社員がブランドの価値を理解し、日々の業務の中で実践できるように研修やワークショップを実施します。日々の活動において、現場のマネージャーが中心になりコーポレイトブランディングが失速しないように注意します(インナーブランディング)。

プロセス
5

社外へのブランド体験提供

顧客やステークホルダーがブランドを体験できるよう、商品やサービス、コミュニケーションを市場に対して発信します(アウターブランディング)。広報・マーケティングを通じて、ブランドの価値を社外に伝えます。

プロセス
6

評判のモニタリングと改善

ブランド体験提供後、それが企業の評判にどのような変化をもたらしたか事後調査を行います。そしてその後も継続的に測定し、市場の変化に合わせて戦略を調整します。(レピュテーション・マネジメント)

コーポレイトブランディングは誰が行うのか

コーポレイトブランディングは、企業全体で取り組むものですが、各プロセスで中心になる部署や人材は異なります。

経営陣
コーポレイトブランディングのキックオフ機能を司ります。ブランドの方向性を決定し、全社的なブランディング戦略をリードします。
人事部門
経営陣の参謀として、また事務局として実務的な推進を行います。各部門の連結ピンとしての機能も期待されます。
広報・PR部門
社外向けのブランディング、コミュニケーション施策の実行とメディア対応を行います。
営業・カスタマーサービス部門
顧客との接点を持ち、ブランドの一貫性を維持します。
現場マネージャー
インナーブランディングの実施と維持を司ります。ブランドの浸透を日常業務で実践し、社員(部下)に寄り添い動機付け、行動をリードします。

コーポレイトブランディングとインナーブランディングの関係

コーポレイトブランディングにおいて、インナーブランディングは社内への浸透手段として位置付けられます。コーポレイトブランディングが社外向けのブランド構築を指すのに対し、インナーブランディングは社員がブランドを理解し、体現するための取り組みです。

社員がブランドの価値を共有し、実践することで、企業の信頼性や評判が高まり、外部への発信も自然で説得力のあるものになります。つまり、社員の行動がブランドの一貫性を強化し、企業価値を高めるのです。

コーポレイトブランディングとインナーブランディングの関係

インナーブランディングの人材的なメリット

1.離職率の低下とエンゲージメント向上
社員が自分の志や働く意味を再確認し、「この職場にいる意味」を明確にすることができるとモチベーションの向上につながります。結果、離職率の低下にも結び付きます。
2.優秀な人材の採用効率向上
コーポレイトブランドが浸透し、魅力的な会社という評判が高まることで、優秀な人材が集まりやすくなります。また採用コストの削減にもつながります。

コーポレイトブランディングの成功事例

タニタ

タニタ

タニタは、もともと体重計メーカーとして広く知られていましたが、競争の激化や価格競争の影響を受け、企業の価値を再定義する必要に迫られていました。そこで同社は、「体重を計る会社」から「健康を測る会社」へとブランドの方向性を転換し、体脂肪計や歩数計、血圧計などの健康管理機器を展開しました。単なる計測機器の製造販売にとどまらず、健康づくりのパートナーとしての立ち位置を確立することで、企業価値を大きく向上させました。

このブランディング戦略を象徴するのが「タニタ食堂」の展開です。社員向けの健康的な食事を提供する社内食堂を一般向けに公開し、健康的な食生活を提案するブランドへと進化させました。レシピ本の大ヒットや飲食事業の展開を通じて、「タニタ=健康」のブランドイメージを確立しました。さらに、自社で健康経営を実践し、その知見を企業向けの健康サポート事業へと発展させることで、B2B市場にもブランドの価値を広げることに成功しました。

タニタの成功の鍵は、計測技術を軸にしながらも提供価値を拡張し、企業の「生き方」そのものをブランド化したことにあります。実体験型のブランディングで社会的な話題性を生み、自社の健康経営の実践によって説得力のあるメッセージを築いたことで、消費者と企業の双方に強く支持されるブランドへと成長を遂げました。

IBM

IBM

IBMのコーポレイトブランディングの成功事例は、ルイス・ガースナーの改革に始まり、コンピューター事業からの撤退、そしてコグニティブ・コンピューティングへの進化という3つの大きな転換点を経て築かれています。かつてIBMはハードウェア中心の企業でしたが、90年代にはPC事業が低迷し、経営危機に直面していました。この状況を打破したのが、1993年にCEOに就任したルイス・ガースナーでした。彼は「IBMは製品を売る会社ではなく、顧客の問題を解決する会社である」というビジョンを打ち出し、単なるコンピューター企業からビジネスソリューション企業へと舵を切りました。

この戦略の象徴的な動きが、2005年のPC事業売却と、コンサルティング事業への本格転換です。IBMはレノボにPC事業を売却し、同時に1990年代末にPwCコンサルティングを買収することで、ITコンサルティングおよびエンタープライズソリューション企業としてのブランドを確立しました。ハードウェアメーカーから、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援するパートナーへと進化しました。これにより、競争の激しいハードウェア市場から脱却し、高付加価値なサービスを提供することで、収益モデルの転換に成功しました。

さらに、2010年代には「コグニティブ・コンピューティング」という新たなビジョンを掲げ、AI技術「Watson」を核としたブランディングを展開しました。これは、従来のITサービス提供者ではなく、「データを活用して知的な意思決定を支援する企業」としてのIBMの新たな立ち位置を確立するものでした。特に医療・金融・教育といった分野でのAI活用を推進し、「未来のビジネスを支える知能企業」というブランドイメージを強化しました。こうした戦略的な変革により、IBMは「単なるIT企業」ではなく、「ビジネスを進化させる知的パートナー」としてのポジションを確立し、コーポレイトブランディングの成功事例として高く評価されています。

コーポレイトブランディングが失敗する原因(教訓)

1.企業の理念やブランドが「建前」になっている
多くの企業が「社会貢献」「倫理的経営」を掲げる一方、実際の行動が伴っていないケースです。消費者や社会は簡単に見抜くようになっています。
→事例:VW(フォルクスワーゲン)の排ガス不正問題(2015年)
2.コーポレイトガバナンスの欠如
例えば利益の水増し、粉飾決算など経営層が「短期的な利益目標」を優先するケースです。
→事例:東芝の不正会計問題(2015年)
3.透明性が欠如し、問題発覚時の対応が遅れる
企業が不祥事を隠蔽しようとし、対応が後手に回るケースです。問題が発覚した際の初動対応が遅れ、ブランドの信頼を一気に失うことが多いのです。
→事例:最近の様々な企業(2022年以降)

まとめ

コーポレイトブランディングは、企業の理念や価値観を明確にし、それを社内外に浸透させることで「この企業だから選ばれる理由」をつくる戦略的な取り組みです。単なるロゴやスローガンの変更にとどまらず、企業の人格を築き、ステークホルダーとの信頼関係を深めることが目的となります。

これを強化することで、顧客の信頼やロイヤルティを高め、価格競争に巻き込まれにくくなるだけでなく、優秀な人材の獲得や社員のエンゲージメント向上にもつながります。さらに、投資家やビジネスパートナーからの評価が向上し、企業価値の最大化に貢献します。

特に、競争が激しい市場では、ブランドの持つ魅力や独自性が差別化の鍵となります。コーポレイトブランディングは、企業の長期的な成長や持続可能な競争優位性を確立するための重要な手段であり、単なるマーケティング戦略ではなく、経営戦略そのものといえるでしょう。

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