例外が惰性に変わるブランド戦略

例外が惰性に変わるブランド戦略

配信日:2025年11月26日

ブランドが壊れるとき、外部の競争や不祥事が原因だと思われがちですが、実は内部の「例外」が最大のリスクになります。「今回は仕方ない」「この施策は一時的」という例外判断自体は、どの企業でも起きる自然な現象です。問題は、成功した例外が“戻らず”に組織の標準になってしまうことです。例外が常態化すると、ブランドの原点や世界観が静かに摩耗し、気づかないうちに軸がズレていきます。

100円マックは「例外の成功」がブランドを蝕んだ典型例

守るブランド”から活かすブランド”へ

2000年代のマクドナルドは、不況期に集客を回復させるため「100円マック」を導入しました。当初は一時的な施策であり、短期的な売上回復という「成功」をもたらしました。しかし、この例外が想定以上にヒットしたことで、組織内に「安さで勝つ」という空気が生まれ、次第に値引きが常態化していきます。

この段階ではまだブランドは死んでいません。むしろ「成功施策」と評価され、もっとやれ、もっと安く、という内部の圧力が加速していきました。この流れこそ、例外が惰性へと変質する瞬間です。

例外が標準になったとき、ブランドは体験価値を失う

100円施策が続くにつれ、マクドナルドが本来大切にしてきた「清潔な空間」「家族で楽しむ時間」「新しいメニューの体験」などの価値が薄れていきました。

値引き依存は利益率を悪化させ、コスト削減は店舗体験の低下を招き、顧客満足度は急落します。もはや「安売りの店」として自己定義が変わり、本来のブランド軸は見えなくなりました。

これは例外を戻せなかった企業が辿る典型的なプロセスです。例外そのものよりも、例外が惰性になりそれを許す組織こそがブランドを弱らせます。

マクドナルドは“更迭→新体制→原点回帰”という王道のプロセスで戻った

では、なぜマクドナルドは例外依存から戻れたのでしょうか。ここにはブランド再生の典型ともいえる3つのプロセスがあります。

まず、100円依存が続いた時期に業績が悪化し、経営の迷走が誰の目にも明らかになりました。既存店の不振、満足度の低下、ブランドイメージの毀損が重なり、「このままでは持たない」という共通認識が社内に広がります。

次に、この危機感を背景にトップが事実上の「更迭」となりました。ブランドを戻すためには、方向性を切り替える意思決定者が必要です。新体制は、値引き依存からの脱却と「戻るべき場所」の再設定を最優先にしました。

そして、新しい経営陣は「体験価値」「店舗の刷新」「デジタル投資」「プレミアム商品の強化」という、未来にも通用するであろうブランド軸を再構築しました。100円の「悪しき成功体験=惰性」を引きずらず、「マクドナルドは何を提供する店なのか」を再定義したことで、ブランドが本来の位置に戻り、再成長の基盤が整ったのです。

例外を戻せるかどうかがブランドの生死を決める

マクドナルドの事例が示すのは、例外は止められないうえに、いったん成功すると「立派な戦略」として惰性に流されるという現実です。成功した例外は社内で称賛され、「もっとやれ」という圧力が生まれるため、放っておくと標準化してしまいます。このとき、ブランドは無意識のうちに別の方向へ進んでしまいます。

公平に言って、例外はどの企業でも起きます。しかし、例外が惰性に変わった瞬間、ブランドは死に向かいはじめます。ブランドを守る唯一の方法は、「これは例外だから次回は戻す」という小さな意思を持ち続けることです。揺らいでも戻れる原点を持つ企業だけが、長期的な価値を維持できます。

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