「安さの次」のブランド戦略

「安さの次」のブランド戦略

配信日:2025年12月10日

多くのマーケターが「安さから一歩抜け出した付加価値を作りたい」と願っています。しかし現実には、気がつくとまた「安さ勝負」に戻ってしまう。「次の価値を作りたい」のに、なぜかブランドは前に進まない。この悩みは、いまの日本の消費財マーケティングに広く共有された課題感です。

100円ショップが示す「ブランドが進化できない構造」

こうした問題を象徴的に示しているのが100円ショップです。100均は圧倒的な企業努力で日本中に「安い」という価値を根づかせました。しかし、その強さが逆に「進化の壁」になっているのも事実でしょう。なぜなら価格を動かせば消費者には裏切りに見え、「この店は100均ではなくなった」と離反される。これは消費者が新たな付加価値を拒否しているのではなく、企業が消費者との約束を無視したまま「高付加価値」へ行こうとすると離反を招くということです。

“100円”という前提を外すブランドもある

そこで彼らは徐々に価格と商品ラインを上げるアプローチを取ります。ダイソーのように100円以外の価格帯を徐々に拡大するやり方が典型でしょう。あるいは3COINSのように最初から300円として登場し、価値の前提を別で設定するやり方もあります。

こうした戦略オプションは昔から存在しますし、100円ショップに限らず、多くの消費財ブランドも同じように「プレミアムラインへのエクステンション」「高付加価値×高価格ブランド」を作ってきました。ただ、それでも本体のビジネス(例えば100均)の付加価値を上げる核心には届いていないケースが多い。だから結局、ブランドの本丸は変わらず、周辺だけが増えてしまう。

“価格を変える戦略” vs “定義を変える戦略”

100円ショップが徐々に品揃えと価格帯を広げることは、確かに有効な手段です。しかしこれは「品揃えの選択肢を広げる」だけであり、ブランドの本体が持つ意味づけそのものは変わっていません。だからこそ、多くの消費財ブランドが同じようにプレミアムラインを出しても、本丸の付加価値が上がらないままなのです。価格を動かすことは表面をなぞる行為に過ぎないのかもしれません。ブランドを高付加価値化(進化)させるには、生活者にとってそのブランドがどんな存在なのかという定義を見直すことであり、ここを動かさなければ付加価値は本質的には変わらないでしょう。

ブランドは「企業の定義」ではなく「消費者の体験」で定義される

参考になる事例を紹介しましょう。ブランドが進化するとき、鍵を握るのは企業の思惑ではなく、消費者がそのブランドを「どう使い、どう理解しているか」です。たとえばマクドナルドは、ハンバーガーショップからファミリーレストラン、そしてカフェのような「時間を過ごす場所」へと変化してきました。これが受け入れられたのは、消費者がもともと「家族や友人と安心して過ごせる場所」としてマックを体験していたからです。IKEAも同じで、単なる「低価格の家具ショップ」ではなく「暮らしのインスピレーションを得る場所」としてすでに体験されていた。だから企業が定義を広げても、生活者の理解とぶつからず、すっと浸透しました。

100均は生活者にどう使われているか

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これを100円ショップに当てはめるとどうなるか。実際の現場を見ると、生活者は100均をこう捉えています。「ゴム手袋やスポンジのような品質に大差のない消耗品を補給する場所」「一人暮らしを始める時に新生活をとりあえず立ち上げる場所」「DIYや収納のアイデアの材料を集める場所」「急な困りごとを解決する場所」。つまり、100均の本質は「100円という価格」ではなく、「生活の小さな問題を即時に解決するミニインフラ」なのです。この理解にブランドが寄り添えば、定義の書き換えは決して裏切りではなくなります。

100均が目指す次の定義は「生活のミニ問題解決インフラ」

もし100均が「100円で買える店」ではなく、「生活の困りごとを瞬時に解決するインフラ」と再定義すれば、新しい品揃えや施策が自然に見えてきます。例えば、新生活の立ち上げキット、DIYアイデアの発信、生活動線に沿った棚割りなど、100円という枠に縛られず、消費者の体験価値に基づいた付加価値づくりが可能になります。

“安さの次”に進む鍵は、「消費者側の意味」に向き合う

結局のところ、「安さの次」は特別なアイデアではありません。生活者がそのブランドをどんな存在として見ているか、日々どんな体験価値を得ているか。それを丁寧に読み取り、ブランドの定義をそこへ寄せていくことです。そうすることで、企業は自然に付加価値を育てられるようになり、ブランドの進化がはじまります。安さの次のブランド戦略とは、顧客にとっての意味や体験価値を知り、それを基点に新しい定義と施策を描いていくことなのです。

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