
既存客維持と新規客獲得を両立させるブランド戦略
配信日:2025年7月9日
ブランドにとっての顧客は、大きく2つに分かれます。ひとつは既に何度も購入してくれている既存客。もうひとつは、まだブランドに触れていない新規客です。
この2つの顧客に対して、ブランドが同時に価値を届けるのは簡単ではありません。既存客に寄せすぎると、ブランドの成長は鈍化し、新規を追いすぎると、既存のロイヤル層が離れてしまう。この「両立のむずかしさ」は、どの企業にとってもリアルな課題です。
既存客は「反復」で動く
既存客がブランドを買う理由は、率直に言うと商品やサービスに慣れているからです。たとえばユニクロの下着やTシャツを買う人は、「穴が開いたらまた同じものを買う」といった具合に、生活習慣の中に組み込まれています。アマゾンでビールを定期的に買う人も、もはや商品を選んでいるわけではなく「反復的に補充している」のが実情です。だからアマゾンの定期便サービスはとても便利なのです。
このような顧客は、ブランドに対する強いこだわりを持っているわけではなく、「間違いない」「慣れている」「失敗しない」という安心感で繰り返し買っているのです。
新規客には「文脈」を届ける必要がある
一方で、新規客にはその「反復の理由」が存在しません。そもそもそのブランドが自分の生活にどう関係するのか、文脈がつながっていないのです。
たとえばお酒は好きだけれど、ビールは飲まない人に対して、「餃子にはやっぱりビールだよね」「風呂上がりに最高」など、その人の生活の意味や価値に沿ったベネフィットを伝える必要があります。つまり、新規客にブランドを届けるには、生活文脈との接点をつくることが求められます。そして「そういう提案もいいね」と、生活者が感じた時に「では、一度トライしてみようか」となります。
「反復」と「文脈」を同時に設計する
既存客には「反復しやすさ」を維持し、新規客には、手を変え品を変え「文脈づくり」を仕掛ける。この両輪がそろって初めて、ブランドは安定した売上と成長の両方を実現できます。
重要なのは、文脈を提案していく中で、既存客の離反を恐れすぎないことです。ブランドの価値やパーソナリティが明確であれば、既存のユーザーは離れることなく、むしろ「また新しいキャンペーンをしているな」と好意的に受け止めてくれます。
事例① ユニクロ

ユニクロはこの「反復と文脈」を巧みに両立しているブランドの代表です。日常使いのベーシックアイテムで既存客の「安心感ある反復」を維持しながら、一方で、話題性のあるコラボ商品や取り組みなど、新しい文脈づくりを続けています。
新しい文脈づくりを躊躇せずできるのは、LifeWearというコンセプト、またはブランドの思想をベースに展開をしているからです。
事例② ヤクルト1000

ヤクルト1000もまた、ロイヤル層と新規層をつなぐ好例です。既存客には「腸に良い」「毎日飲んで安心」という長年の信頼が根付いていますが、ヤクルト1000は「睡眠への効果」「ストレス緩和」という、あらたな文脈を提示したことでビジネスパーソン層をあらたに獲得しました。
現代のストレスを抱える生活者がヤクルトの新しい文脈(ベネフィット)を自分事化し共鳴した好例といえます。
既存客維持と新規客獲得は「反復と文脈」で行う
こうした成功事例に共通しているのは、ブランドの価値が一貫していることです。ただし、その価値を「どう語るか」「誰の文脈に合わせるか」を柔軟に変えています。
つまり、ブランドのコアはぶらさず、語り方を変えることで「反復と文脈」を両立しているのです。それこそが、現場でも実行可能な現実的なブランド戦略だといえます。そして「このブランドなら、今日も安心して選べる」という反復の信頼と、「これって、自分にもいいかも」と思わせる文脈の提案の両方を地道に積み重ねていくことが、既存客と新規客の両立を実現する考え方です。