「社会貢献」ではなく「ここちよさ」を起点にするブランド戦略」

「社会貢献」ではなく「ここちよさ」を起点にするブランド戦略」

配信日:2025年10月15日

近ごろの企業は、大きなスローガンとして「社会性」を掲げるよりも、個々の製品ブランドが提供するブランド体験のなかに「自然に社会性を埋め込む」方向へとシフトしています。数年前のSDGsやESGといった言葉がもてはやされた時期は過ぎ去りました。むしろ生活者はそうした立派なメッセージよりも、日々のブランド体験を通じて「どんな気持ちが生まれるか」に敏感になっているように思います。

先日、キリンビールのグッドエールという新製品を買いました。そこでも社会性を訴求する取り組みを見つけました。「グッドエールJAPAN」。WEBサイトや、缶に付いたQRコードから自治体を応援できる仕組みです。これは寄付をするという立派な行為というよりも、「自分が少しだけ誰かの役に立った」という感情の余韻を残します。この“ここちよさ”こそが、社会性をブランドに根付かせる最も強いドライバーになっています。

生活者は「英雄」ではなく「共鳴者」になりたい

ブランドプリズム

ではなぜ、生活者はこうした共鳴型の行動を求めるようになったのでしょうか。背景には、政治・行政への失望感や社会構造の変化があると思います。たとえば、景気の停滞、物価高騰、地方の疲弊、政治の迷走。国がやるべきことを十分に担えていない現実を、生活者は日々のニュースや生活実感として感じています。そんなときに、人は「自分もなにかできないか」という衝動を抱きやすくなるのではないでしょうか。

ただし、誰もが行動家になれるわけではありません。だからこそ、「日常生活のなかで自分の小さな行動が社会につながる」企業の取り組みに意味を感じるのです。生活者がヒーローではなく共鳴者でいたいという心理は、無力感と希望のあいだから生まれる、いまの時代特有のインサイトといえます。

そして企業は社会の「もうひとつのインフラ」になりつつある

ブランドプリズム

同時に、企業側にも変化があるようです。かつて社会貢献はCSRの領域でしたが、いまでは「企業が社会インフラの一部を担う」という認識が広がりつつあるのではないかと思います。やはり行政が機能不全に陥りつつある分野を、企業が代わって支える構図が進行しています。たとえば、防災、防犯、地域振興、教育、医療、環境対応。とくに大手企業は、社会に与える影響力が大きいがゆえに、単なる経済主体ではなく「社会の担い手」としての役割を自覚し始めています。

その動機は決して偽善や売上目的だけではなく、「自分たちの事業を通じて社会を少しでも良くしたい」という企業の想いや願いの表れでもあります。そして結果的に、その姿勢が、生活者から応援され信頼を生み、売上や利益にもつながる構造ができてきているのです。

日経「社会必要度」導入が示すブランド価値の再定義

先日、このコラムでも取り上げたように、日経リサーチの 2025年版ブランド戦略サーベイ では、新たに「社会必要度(未来をよくしてくれそうな企業)」という評価軸が導入されています。ヤマト運輸やトヨタなど、日常生活や社会インフラと接点を持ち、社会課題(人手不足、モビリティ、物流など)に挑む企業が高評価を獲得しています。

この変化には明確な背景があります。生活者のあいだには、物価高、賃金停滞、少子高齢化などの構造的な不安が広がり、政治や制度への信頼が揺らいでいます。そんななか、「誰かが未来をよくしてくれるだろう」という期待をかける先として、企業が注目されているのです。

つまり、単に「いま有用な製品・サービスを提供できる企業」ではなく、「いま、未来の社会に役立つ存在かどうか」がブランド価値の重要な尺度となってきているのです。このような変化を受け、企業側も「ただ売るためのブランド」ではなく、「未来と社会を担う存在としてのブランド」を構築する方向が求められるようになっています。

社会とブランドをつなぐのは「感情設計」である

ブランドの役割は、自らを通じて「生活者と社会をつなぐこと」になっているのかもしれませんね。壮大な理念よりも、日常の小さな行動が社会とリンクする参加のきっかけをつくること。ここに生活者の共鳴と企業の意志が重なったとき、ブランドは強い共感を得ます。

そして売上や利益はあくまでその結果であって、出発点は「ここちよさ」や「ちいさな希望」かもしれません。だからこそ、この領域は単なる「流行のマーケティング戦術」ではなく、これからの「ブランド戦略の中核」になっていく可能性があると思います。これからのブランドは、商品を売るだけでなく、「社会の希望と共鳴する存在」でなければ選ばれなくなる。ここちよさと社会性をどうつなげるかが、ブランド戦略の新しい分水嶺になるでしょう。

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