テック系起業家に起きている変化
配信日:2023年6月14日
こんな記事が出ていました。「山積みの社会課題を前にテクノロジーを梃子にして解決しようとする起業家が世界で増えている(日経新聞6月5日)」。この2ヵ月ほど、フランス人の若いAI開発者とLINEで仕事をしています。彼はベンチャーのAI開発者で、近い将来に自前のアプリを立ち上げるのこと。私の古い知り合いのフランス人が連絡をしてきてブランドの立ち上げを手伝うことになりました。このアプリは精神不安、社会からの断絶感からくる薬物・アルコールなどの依存症からの脱却を促すものです。その解決策として採用されるのがAIと医療の融合です。彼との仕事は面白い。まさに「社会課題を前にテクノロジーで解決しようとする起業家」との仕事です。
これまでテック系の起業家というと「破壊的イノベーション」という言葉や、例えばイーロン・マスク氏のような過激な人物がイメージされがちだったと思います。そこからくるのは「破壊と創造」や、時には「勝者と敗者」などもあったかもしれません。しかしここに社会課題というキーワードが入ると、同じテック系でも「私だけでなく私たちが良くなる」というニュアンスが付くようで面白い。上記、フランス人起業家の彼も、自身が依存症を患った辛い経験と、代替医療を認めない現代の医療体制への問題意識から起業を決意。寝る間も惜しんで仕事をしているようで何時でも連絡がきます。そして何より人格がマイルド。まだ25歳と若いけれど真摯に取り組んでいるのがわかります。
実はもう過激なテック系の起業家というのは古いのかもしれません。誰がどうということではないにせよ、「俺ファースト」のような態度や言動を持つ人物はどんなに凄いことをやっていても社会一般からは煙たがられ始めているのではないか。相手にするのは精々、「同じ種類の人間やビジネスありきの投資家」くらいのものではないかと思えてきます。そういえばChat GPTを開発したオープンAIのサム・アルトマン氏は新しいタイプのテック系起業家です。高度なAIの開発が人類を危機にさらすリスクがあることを認め「自分たちを規制してほしい」と米議会や各国首脳に「自ら求める」。社会全体を考え、自分から手足を縛ってくれと名乗り出る起業家は彼が初めてではないでしょうか。