意図的戦略と創発的戦略
配信日:2022年3月24日
3月23日は子供の卒業式でした。朝、電話をくれました。「4年間、ありがとう」。日頃、なかなか話す機会がない中、「それを伝えるために電話をした」と言いました。僕は胸に来るものを感じながら「こちらこそ、4年で卒業してくれてありがとう。よく頑張りました」と伝えました。子供を一人、社会に送り出すというのは感慨深いものがありますね。「僕もよく頑張った」と、ちょっとだけ誇らしい気分でした。「配属先が東京だとして、いまの家は出るのか?」。彼は生れてから一度も東京を出たことがない。そろそろ独り暮らしをしたほうがいいと思って尋ねました。「会社の寮に入る」と言いました。「アパートを借りることも考えたけれど、寮なら月々8,000円だから(笑)」「まずは3年、頑張ってみる」と、いかにもZ世代らしい感覚で答えてくれました。
彼は彼なりのビジョンを持って企業に就職しますが、これから思い通りにいかないこともあるでしょう。意図的戦略と言います。ある調査によると起業家が思い描いた当初の戦略や計画(意図的戦略)の93%は失敗に終わるというデータがあります。思い違いや過度の楽観主義が現実と乖離することが原因です。起業家に限らず、就職する学生も同じかもしれない。それが就職して早々に辞めてしまう結果になっているのでしょうね。親として僕の目下の心配はここです。それでも我慢して会社に居続ける子もいますし転職や起業する子もいます。何が良いかは個々人が決めることですが、キャリアを積む機会を逃してしまうことだけは避けて欲しいと思います。
大事なのは「創発的戦略」を思い出すことです。成り行きのなかから学び、上手くいっている現実に視点を合わせて戦略を修正することを創発的戦略と言います。昔、ホンダが米国市場でバイクを売ろうと参入した時のこと。当初、ホンダの意図的戦略はハーレーや欧州ブランドのような大型の高級バイクを売ることでした。しかし日本のメーカーに現地のディーラーや消費者は冷たく、日本製高級バイクは相手にしてもらえなかった。そんな売れない中で現地スタッフたちは週末になると郊外のオフロードを小型で丈夫な「スーパーカブ」で走り回って憂さを晴らしていたと言います。それを見ていたアメリカ人たちは「オレもその憂さ晴らしの道具(スーパーカブ)が欲しい」「楽しそうだ」と求め始めます。最初は仕方なく日本からスーパーカブをその都度、輸入していましたが、やがてシアーズのバイヤーの目に留まり、スーパーカブは米国市場で正式に売られるようになりました。ホンダは意図的戦略の大型バイクでは失敗したかもしれないけれど、実際にニーズがあり収益も生むスーパーカブに戦略を修正し事業を成功させたわけです。これが創発的戦略です。
企業でも当初の意図的戦略にこだわり過ぎず、成り行きと経験のなかからウィニング・レシピを見つけ出すのは「頭の柔らかさ」が決め手になる。社会人一年目も同じです。目の前のギャップに落胆し過ぎず、ウィニング・レシピを見つけ出してほしい。5月くらいになったらこんな話も子供にしてみようと思います。