広告代理店の付加価値とは?
配信日:2022年11月2日
ある広告代理店さんで社内研修をしました。若手AE(営業担当)の人たちが対象です。広告代理店にクライアントはどんなことを求めているか。僕のようなブランドマネージャー経験者で日頃もメーカーのマーケティング担当者と頻繁に接している立場から研修講師を務めました。ありていに言えば、広告代理店の仕事は「広告を出稿してくれる会社を見つけてメディア・媒体を売る」ことです。しかしいまどき、それだけの仕事をしているだけの広告代理店は少ないと言えます。そもそも広告代理店がクライアントにもたらす付加価値とは何か?これからキャリアを積む若手の広告マンには良いテーマだったと思います。
広告代理店の付加価値。この話をする時、僕はいつもアップルが1997年に行ったThink Differentキャンペーンを思い出します。今回もその動画をまずは見てもらいました。
この広告は何度みても心に響く。このキャンペーンはスティーブ・ジョブズがアップルに戻ってきたばかりの頃のものです。当時、アップルの業績は最悪でした。苦境の真っ只中にいて、毎日のように身売りの話がでるような始末でした。従業員のモチベーションも最悪で、優秀な人材から転職していくような状況でした。ジョブズはアップルの持つべき哲学、強化するべき価値観を従業員に知らせるためにThink Differentキャンペーンをテレビ広告で行いました。広告代理店はカリフォルニアのTBWA/Chiat Dayです。恐らく、ジョブズの語る「持つべき価値観」は本人もよく説明できないくらい主観的なものだったのではないかと思います。クレイジーとは何か。世界を変えるとは何か。あのジョブズですから、どんな喋り方をしたのか、伝わらないもどかしさにどれほどイラついたか・・・。
しかしTBWA/Chiat Dayのスタッフはそれを1分の動画に見事にまとめた。そしてThink Differentという印象的なメッセージを社内・社外に向けて発信しました。考えてみれば、これこそ広告代理店の付加価値だと思います。苦境にいるアップルを、たった一言のフレーズと1分の動画で「救った」。彼らが提供したのは単なる広告クリエイティブではなく「今日のアップル」だと言えます。Think Different後の成功は言うに及びません。25年前のこのキャンペーンこそが今日のアップルのビジネス的な価値、成功の出発点になっていた。「クリエイティブの力で将来のビジネス的な価値を作り出す・提供する」ことが広告代理店の付加価値なのだと、僕は若手のひとたちに説明しました。
ところで、Think Differentというと、いまでも思い出す光景があります。ちょうど洋酒会社のマーケティング・マネージャーとしてパリに出張に行った時(1999年くらいか)のこと。ルーブル美術館が外壁工事をしていて、セーヌ川に向かう壁一面が、足場を覆う巨大なネットで囲まれていました。そのネットの上にでかでかと出ていたOOH広告がアップルのThink Differentでした。ルーブル美術館にThink Differentの広告はあまりにも見事な取り合わせで、いまでも記憶に残っています。