社内の温度感と社外への伝播
配信日:2024年6月14日
今回は「社内からの抵抗・否定」について考えましょう。ある中堅支援先企業の人事部長さんから悩みを聞きました。社内がブランディング活動に否定的だというのです。人事部長さんだけにブランディングの目的は採用促進・離職防止となります。「社内、特に中堅層の評判はあまりよくないのです。なんでお金をかけてそんな無駄なことをするのか、今のままでよいではないか、何よりB2Bの我が社にとって意味があるのか」。B2Bの我が社という言葉から、おそらく広告やSNSが彼らの現場仕事とかけ離れていて無駄なことに見えているようでした。この意見はわからないでもないですが、「それでは何故、多くのB2B企業がテレビ広告のように莫大な費用をかけていると思いますか?」という質問にはどう答えるか。正解は「今の時代はB2Bもブランディング活動を必要としているから」となります。
「B2Bがブランディング活動に取り組むのは、世間一般に見えない仕事をしていることが根本にあります。そうすると顧客は既存顧客に限定されがちだし、新規開拓も大変です。みなさんの仕事も尻つぼみです。人材採用もなかなか進まない。募集をかけても応募してくれないとか、採用までたどり着かないことも多い。なによりも社員や社員の家族が無名の会社に不安を感じ、離職率も高まる。だから「お父さんはちゃんとした会社だから安心してください」ということを奥さんや子供たちに伝えることも大事です。顧客獲得や人材採用だけじゃなく世の中に存在を認められること自体、価値のあることなのですよ」。
なにもB2Bに限ったことではなく、B2CでもB2Dでも同じです。こうやってわかりやすく話すと、ある程度は納得してくれます。コツは否定派への理解と共感を示すことです。しかしブランディング活動、または「会社が取り組もうとして頑張っている活動」に対して否定的な意見は意外と多いのも事実でしょう。昔なら「否定派は抵抗勢力」という前提で対策をしたものですが、いまのような多様性がキーワードの時代になると、否定派を逆否定してしまうことも躊躇される。事実、否定的な考えを持つこと自体は悪くない。各人がどう考えるかは自由だし、仕方がない。だからあまり気にせず仕事を進めるのが実態かと思いますが、放置するとそこからブランド自体が崩壊に進むこともあります。つまり社員が自社に否定的なのに「どうして新卒や中途で入社を検討してくれる人が喜んで入社してくれるのか」という現実が生まれるのも事実なのです。
僕が否定派の人たちに知らせるべきだと思うのはブランディング活動の是非よりも「あなた自身がそうやって負のブランディングをしている可能性がありますよ」という点です。例えば新卒学生に向き合う若手リクルーターはどうか。「うちの会社なんて大したことない」と本心で思っているリクルーターを前に学生は就職したいと思うでしょうか。ではこのリクルーターを生んだのは誰か?社内の雰囲気や熱量に他なりません。つまり社内の温度感は社外に伝播する。ポジティブであろうとネガティブであろうと、これがブランディングの実態と言えます。社員が愛せない会社や製品をどうして顧客や消費者が愛してくれるのか。社員が真剣でない仕事にどうして顧客が真剣に依頼してくるのか。社員が熱狂していないのに、どうして顧客が熱狂してくれるのか。人事部長のブランディングに限らずもっと広く、社内の温度感が社外に伝わりしかるべき結果を生み出すことを示唆するようです。