価値は3種類あることを知っていますか?
配信日:2018年05月23日
マーケティングで考慮する「価値」というのは実に興味深い傾向があります。マーケターは消費者の「不」を取り除こうとします。しかしそれによってベネフィットが生まれるかどうかは別だということもあります。例えばホテルのサービスを考えた時、もしベッドのシーツが汚れていたら、お客さんはクレームを付けるでしょう。最低限のサービスとして「ありえない」からです。一方、シーツが汚れていなくても、お客さんの満足度は高まりません。なぜなら「当然」だからです。この「満たしていないと不満になるが、満たしていても満足は高まらない」レベルの価値を「当たり前価値」と呼びます。まるでタイヤのついていないクルマのようなもので、どれほど車体のデザインが優れていてもお客さんにとっては不満にこそなれ、価値がないのです。最低限なければならない価値であって、これがなければ問題外、大きな不満になるレベルの価値です。
次に当たり前価値を満たした上でマーケターの考えることは「いかに満足度を高めるか」です。ホテルのサービスで言えば、例えば「予約していたシングルの部屋がダブルにアップグレードされた」などがそうです。このような追加的なサービスによってお客さんの満足度を高めていくレベルの価値を「一元的価値」と言います。「追加が増えれば増えるほど、満足が比例して(一元的に)高まる」価値です。多くのサービス業の取組みは一元的価値を高める努力だと言えます。しかしこのレベルでの満足向上はやがて熾烈な同質的競争を生むことになります。文字通り「より良いものをより安く」の戦略と言ってよく、体力や努力などをつぎ込むことが競争のベースです。
そのようななかでお客さんがまだ見たことない価値を提供しようとする価値もあります。ホテルのサービスで言えばザ・リッツカールトンがそうでしょう。例えば出張中のお客さんがチェックアウト時に午後のミーティングで使う大事な書類を忘れたとします。完全なお客さんのミスであり、ホテルには何の非もないのですが、リッツのホテルマンならその書類を会社まで届けてくれるでしょう。仮に新幹線に乗っていく場所でも至急届けてくれるに違いありません。お客さんの満足度はこの上なく高まることになります。仮に届けてくれなくてもホテルへの不満にはなりませんが、届けてくれたことで満足になる価値です。このようなサービスを「魅力的価値」と言います。「なくても不満ではないが、あると一元的価値とは別次元で大きな満足や喜びを生み出す」価値です。多くの新カテゴリーが生み出すのが魅力的価値に他なりません。
まとめると、当たり前価値は「なければ不満。あっても満足ではない」。一元的価値は「あればあるほど満足」。魅力的価値は「なくても不満じゃないが、あると一元的価値とは別次元の大きな満足」となります。当たり前価値や一元的価値はマーケット・インの発想から生まれます。顧客の声を聞きながらすぐに改善するマーケティング。または製品の性能をどんどんバージョンアップさせブランドの付加価値を高めるマーケティング。一方、マーケット・インでは魅力的価値を生み出すことはなかなか難しいのです。ここで必要なのは別の発想や現状の否定を伴うもので、ここに「良きプロダクト・アウト」とでも言うべきものの真骨頂があります。マーケター自身がプロシューマーであること、顧客よりも高い目線に立ち、自分なりのロジックや方法論でカテゴリーに革新を起こすこと。それによって消費者はこれまでにない大きな満足や喜びを感じるのです。