ブランドが上手くいっている状況では何が必要か?
配信日:2018年05月30日
ブランドが上手くいっている状況ではターゲット消費者も、カテゴリーも、差別化ポイントも見直す必要がありません。そのような時はそれまでのやり方を継続していくことになります。効率論ですね。しかしここにパラドクスがあって、効率論を追求していくと必ずどこかで効果性が薄れていくのです。ブランドの経年劣化とでも言うのでしょうか、やがて顧客から多くを期待されなくなります。それをよく理解しているマーケターは通常、製品の性能をアップする努力を続けるのです。大きな言い方をするとカテゴリーの進化です。つまり上手くいっている状況下では、本来なら手を付けなくてもよいカテゴリーこそが考慮の対象です。何らかのイノベーションを伴いながら、カテゴリーを進化させブランドの鮮度を保つのです。
ハイエンドのニーズ。どのようなカテゴリーにも絶対に外すことのできない重要ニーズというものがあります。絶対的で普遍的な「大きなニーズ」です。そのニーズを充足させるアプローチを巡って企業各社はカテゴリーの進化を繰り返すようです。もう少し詳しく見てみましょう。例えば、スニーカーのハイエンド・ニーズは「走る・歩くこと自体が楽しい」かもしれません。そうだとして、スニーカー各社は「歩くのが楽しい」を達成するために、形態や機能性に合わせてスニーカーそのものを進化させてきています。
ここ10年くらいに登場したスニーカーで印象深いもの。まずはナイキフリーです。それまでのスニーカーに比べて、「はだし感覚」は歩くのが楽しくなるシューズでした。私もウォーキング・シューズとして使っていました。そうこうしているうちに出てきたのがリーボックのイージートーン。独特のソール形状で「履いているだけでトレーニング効果が実感できる」というユニークなソールのものでした。その形状が履いている時にやや不安定な状態を意図的に作り出すので、シェイプアップ効果も生み出し女性にも人気でした。素足感という点ではイタリアのソール専門メーカー、ビブラム社のファイブフィンガーズも強烈な存在感がありました。まさに足先の形状をした5本指のついた“じか足袋(たび)”のようなスニーカー。コンセプトは「今の自分に気づきこれからの自分を作る靴」です。そして最近よく見るのはナイキのフライニットでしょうか。一本の糸を編み上げて作ることで、まるで靴下のようなフィット感と軽量感のあるスニーカーです。
これらはハイエンドなニーズに向けてそれぞれがアプローチそのものを工夫し競争しているようです。そしてその時、それぞれのブランドは自らの進化の方向性を独自な考え方で決めているのが印象的です。各社それぞれがリーダー的な振舞いでカテゴリーの未来を描いているようです。
環境志向や燃費志向の人にとって「走行距離を延ばす」のは一種のハイエンドなニーズではないでしょうか。プリウスはターゲット消費者も差別化ポイントも変える必要はありませんが、カテゴリー進化によってブランドを更に魅力的にしています。プリウスPHVではルーフに搭載した太陽電池パネルが最大の進化です。これは充電器に接続しなくても青空の下に停めておくだけで充電されるソーラーシステムです。これによって一日最大6km程度のEV走行が可能になります。ハイブリッド・カーというコンセプトそのものを進化させるブランドの進化です。同時に、まるで消費者の環境意識をイノベーションによって啓発しているようにも見えます。ここにブランドと消費者の関係性をより強固なものにしていくプロセスが見えます。
結局、ブランドを育成するとはカテゴリーの進化を伴って行われるのです。その新しいカテゴリーを最初に作ったこと自体がブランドのレピュテーションに繋がり、消費者からの信頼と期待を受け続ける存在となるのです。「自らの方法論を進化させる」はカテゴリーの進化に他ならず、カテゴリー進化こそブランド進化の源泉なのです。