リニューアルとリブランディング
配信日:2018年01月18日
ブランド戦略でよく言われる「ブランド・リニューアル」と「リブランディング」についてお話ししましょう。ブランド・リニューアルは「ブランドの手入れ・化粧直し」、リブランディングは「ブランドの手術」といえます。
まずリニューアルから。成功しているブランドは「リニューアルを繰り返しながら育成されてきた」と言ってよいでしょう。どのブランドも最初から「ブランド」だったわけではなく、何度も試行錯誤を繰り返しながら、時には成功し時には失敗し、それでも前進してきた結果が「ブランド」だったのです。
よって、リニューアルはブランディングの過程そのものです。ブランドを育成するとはリニューアル戦略を先手、先手で打ちながら、ブランドと顧客の関係性を新鮮に保つことを意味します。そしてそこには当然、企業にとっての経済合理性もあります。多くの新製品をすべて成功させる(売れるようにする)コストと、絞り込まれたブランドに100%の力を注ぐコストを比べたら、後者のほうが圧倒的に安価で、かつ成功の可能性も格段に高いものです。また管理のシンプルさやオペレーションの容易さなども圧倒的に有利です。
一方、リブランディングは文字通り、ブランドを作り直す(再構築)ことを意味します。リニューアルよりもブランドの置かれている状況は深刻です。鳴かず飛ばすのブランド、またはかつては良かったけれど、最近では落ち目のブランドに必要とされるのがこの戦略です。リニューアルに比べてリブランディングはより大掛かりであり、スキルのあるブランド・マネージャーや事業部長が任されることになります。
かつてブレンディ・インスタントコーヒーのリブランディングを行った時、「ブレンディはあまり美味しくないが、アイスカフェオレを作るには最適である」という調査結果がありました。私たちはブレンディを「カフェオレ専用」とすることを決めました。ではどのようにそのポジショニングを強化するのか?(リブランディングするのか?)
消費者はアイスカフェオレを作るのに、まずは通常の量のインスタントコーヒーをコップに入れ、少量の熱湯を沸かして注ぎ、非常に濃いコーヒーを作って、最後に冷たいミルクを入れて完成させるというプロセスを踏んでいました。これはごく普通のプロセスに思えますが、コーヒー屋の目で見ると、ここには「消費者が甘んじて受け入れている不」がありました。「不便」「不都合」「不経済」「不満」「不安」これらを「不」といいます。私たちには消費者がお湯を沸かして濃いコーヒーを作るのは「潜在的な不」と見えました。
そこでブレンディのリブランディングは「いちいちお湯を沸かして濃いコーヒーをつくる必要がない」「冷たいミルクにもサッと溶ける」パウダーの開発が中心テーマとなりました。そして研究所は最終的にそれを解決し「フロスティ・パウダー」というものを開発し、マーケティングはそれにふさわしいパッケージデザインと広告コミュニケーションを用意して、最終的にブレンディはリブランディングを成功させました。シェアは大幅に改善しました。このようにリブランディングとは「深いコンシュマーインサイト」「プロシューマーとしての視点と解決策」をベースに仮説をつくり、それを実施していくことに他なりません。
ただ興味深いのは、ブレンディもまた定期的にリニューアルを怠らずブランドの育成をこころがけてきたことです。それにもかかわらず、シェアの改善やビジネス上の課題が解決できない時に、リブランディングが求められたということです。まるで健康診断をしっかりしていても、時に医者のお世話になることがあるケースに似ています。