消費者を想定する意味
配信日:2018年05月02日
ターゲット消費者を想定することは基本的なことと思われていますが、多くの企業で見られるのは「ターゲット消費者を明確にしないまま、モノありきでコンセプトを書き出す」「モノの説明文に終わっている」ことです。ある化粧品のブランド・マネージャーが私に聞きました。「うるおいと肌の安定をコンセプトにしたいのですが売れますかね?」私の答えは「ターゲット消費者によりますね」。ターゲットを決めて、そのうえで「うるおいと肌の安定」がその人たちに価値となりうるかを検討しなければなりません。野球のピッチャーとキャッチのようなものでどんな球を投げたらよいかはキャッチャー(消費者)によるのです。
BMWで言えば、まず「走りを愛する人」がターゲット消費者です。クルマを運転する人はたくさんいますが、その中でも「走りを愛する人」のみに好きになってもらえば良いと考えているのです。これをリスクと考える企業も少なくありません。ターゲットを絞るとその他のひとに買ってもらえなくなると短絡的に考えるのです。その結果、ターゲットは曖昧なまま「みんな」のブランドにしようとします。ここからブランドは誰のものかわからなくなり迷走します。
もしBMWが「みんな」を想定したブランドだとしたら、いまのような成功はなかったでしょう。つまりターゲットを絞ることと買ってもらうことは、実は同じではないのです。むしろBMWはターゲットを絞り顧客イメージをはっきりさせることで「自分もそうなりたい」「このBMWに相応しい自分でいたい」と考えるターゲット以外の消費者も取り込めるのです。
つまり顧客には2種類あるのです。ポジショニング・ステートメントに書く、こちらが想定するターゲットを「イメージ・ターゲット」と呼びます。ポイントは「心理的要因で定義すること」です。つまり「そのカテゴリーに対してどういう態度やマインドを持っている人たちか」または「どのようなライフスタイルを志向する人たちか」などです。よくターゲット消費者の設定というと、「40代の経営者・プロフェッショナル層」などデモグラフィック的に定義することが多いかと思います。これも大事ですが実際にそのような40代は様々な人たちがいて、ブランドに相応しいターゲット像を十分に描き出しているとは言えません。ひとによってイメージする40代の経営者・プロフェッショナルが様々なのです。よって、より具体的にターゲットを描き出す手段として「走りを愛する」など心理的要因をベースに述べると良いのです。
もう一つは実際に買ってくれる人たちで、これを「アクチュアル・ターゲット」と呼びます。こちらはイメージ・ターゲットも含まれるものの、想定外の消費者であることも往々にしてあります。BMWも、イメージ・ターゲット以外の幅広い人たちが買っているはずです。そのブランドを使用することで自分も「それに相応しいのだ」と自己認識したい、ブランド・イメージをまといたいというのが主な理由です。それで良いのです。そのような広い顧客層に買ってもらうためにも、BMWというブランドは基本的に「走りを愛する人」のために作られるのだと宣言していることが大事です。