ユーザーエクスペリエンスとは何か
配信日:2018年12月05日
最近は「消費」に加え、ユーザーエクスペリエンス(UX:顧客体験)という言葉もよく使います。そこから「体験価値」という概念も出てきています。もともとUXはIT業界から出てきた言葉で、それは操作のしやすさや使いやすさといった個々のユーザビリティを一連の流れとして捉える概念でした。(つまり体験となる)
この「体験」がいまのマーケティングでは差別化の要(かなめ)になってきているわけです。例えば、スターバックスはコーヒー以上に「第三の場所」としての体験を売っています。同じくブルーボトルコーヒーはコーヒーを売る以上に「昔ながらの喫茶文化」を売っています。コーヒー自体の味や香りによる差別化以上に、UXでの差別化が重要なポイントになっています。
考えてみれば、消費はUXに包含されるものだとわかります。例えば、インスタントコーヒーは味や香りを「消費する」ものです。手早く安く簡単にコーヒーを味わえればよい。一方、レギュラーコーヒーは、まず豆を挽きドリッパーにセットして、お湯がぷくぷくいって湧くのを待ち、琥珀色のコーヒーがしたたり落ち、それが部屋の空気を香ばしいものに変え、更にお気に入りのカップに注ぎ、ゆっくり味わう。つまりコーヒーに対する向き合い方が違う。コーヒーの味・香り以上に「コーヒーを淹れる手間や時間も含めて消費している」と思うのです。
そういえば先日、AGF時代の同僚と話をしていて、これを証明することを言っていました。最近はレギュラーコーヒーを豆で買う人が多いらしいのです。Bean to cup(豆からカップへ)というそうです。私がAGFで働いていた頃は粉(挽いた状態)で買う人が多かった。コーヒーというのはナイーブなもので、挽いた瞬間から香りの劣化が始まる。よって豆から挽くほうが旨いのですが、それは「手間」だと考えられていたわけです。しかしいまでは、その手間が「価値ある体験(体験価値)」としてウケているのです。
もっともインスタントコーヒーでも、そこに体験がないわけではありません。「便利」「簡便」「早い」「安い」というのも体験の一種です。IT業界で出てきたユーザビリティ、使いやすさも体験価値を構成するものとして出てきたことは確かです。しかしそれはコンピューターというものが専門的で操作の難しいカテゴリーだったからです。逆にコーヒーのようになじみが深く、しかもユーザーのリテラシーが高いカテゴリーでは、安近短でコモディティな体験では満足しきれないのではないでしょうか。
つまり、体験が価値あるものとして受け入れられるようになった背景には、過度な便利さへの揺り戻しがあると思います。例えばコンビニの弁当。例えばアマゾンでの買い物。例えば安くてボリュームがある食事。そういうものに疲れて、もっと人間的な生活を営みたいと思ったのではないか。それが家庭料理や手作り料理、家族団らんの食事、T-SITEのような時間と空間を楽しむ店舗、また対人でのおもてなしやカスタマイズされたサービス、口に入れるものにこだわった健康的な食生活、つまり体験価値の見直しに繋がったのではないでしょうか。体験価値には安売りのアンチテーゼがあります。
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