マーケターは顧客が誰か本当にわかっているか
配信日:2018年05月09日
マーケティングではターゲットの重要性を強調しますが、マーケターの多くはターゲットを理解しないままコンセプト開発やマーケティングをしています。もちろん、まったくターゲット不在というわけではないのです。しかしあまりにもラフなターゲット像しか追っていないことが多く、結局のところ、ターゲット不在と大して変わらないレベルなのです。一体、自分の顧客が誰なのかも理解せずに、何故、ビジネスを成功させられるのでしょう。
よく見られるのはモノありきや、「想い」中心のコンセプトです。それらをベースにターゲットは想像のなかで作り出されます。「一体、こんなお客さんが本当にいるのですか」と訊くと、多くは苦笑されます。自分の顧客を知るにはしっかりした調査以上に「日頃の観察」が大事だと思います。例えば「お客様の声」などがそうです。企業には何らかの形でそれらが入ってきます。カスタマーセンターや営業先からのフィードバックなどがそうです。アマゾンやウェブショップでの消費者の書き込み、評価もそうでしょう。
あるウェブショップを運営している会社でコンセプトを明確化する仕事がありました。特に誰がターゲットなのかわからない、または誰をターゲットにしたらよいのか決められないという問題を抱えていました。その時に私が最初に見たのはその会社のホームページに掲示されているユーザーの喜びの声でした。全部で300件ほどの書き込みがありましたが、それらを丁寧に読み込んでみると、おのずとそのブランドの何がどのような顧客に支持されているのかがわかりました。答えは意外にも自分たちのホームページにあったのです。既にある顧客の声を丁寧に眺めるだけでも、顧客が誰でどのようなニーズを持っているかを知ることが出来ます。
時には「本当にそのターゲットが自分たちの顧客なのか」という疑問がわくこともあります。これはターゲットを仮説段階で理解している状態です。どういうわけかその状態をずっと抱え続けながら「こうじゃないか、ああじゃないか」と言っているケースも見られます。
ある飲料ブランドのケースです。このブランドはドイツの国民的飲料ですが日本での認知はほぼない状態。このブランドをどう売るか、そもそも誰に売るのか。ドイツではよく知られたブランドなのでドイツとなじみのある人たちをターゲットにしてはどうかと考えました。つまり「日本に在住のドイツ人」がターゲット仮説です。しかしそのようなひとは身近におらず、ドイツ商工会議所に相談にいっても「このブランド、知っています」と話は弾むものの聞き取りレベルの結果しか得らませんでした。
そこで後日、ドイツフェスで実際にドイツ人に売ってみることにしました。ここには在日ドイツ人、ドイツ好きの日本人が3万人ほど来ます。私たちは3日間、ブースに張り付いて販売をしました。実際に売ってみるとターゲットが誰なのかよくわかりました。意外にもドイツ人はあまり買わないことがわかりました。理由は「よく知っているよ、でも何か?」というようなもので、例えば日本人が海外で「お~ぃお茶」を見ても「ああ、売っているのだ」くらいの感覚を持つものの、そこで買うわけではないのと同じでした。一方、ドイツ好きの日本人はよく買うのがわかりました。20から35歳の男性、彼女あり。留学や仕事などでドイツ経験値の高い人たち。(カクテルとして提供してみると)ラムやウォッカも好きなパーティ・ピープル・・・。このような詳しい情報はやはり実際に売り場に立ってターゲット仮説の人たちと接してみるのが一番です。それに、それ以上の有用な情報が手に入ります。その人たちに響く「最も強力なUSPは何か」「必ず売れる販売トークの順序はどうか」「価格の受容性はどうか」など。結果、3日間で2000本ほどの販売実績を残しました。
このようにターゲットでモヤモヤすることは多いけれど、まずは既にある顧客の声を丁寧に集め、実際に売り場に立つだけでも、彼等が誰でどのようなニーズを持っているかを知ることが出来ます。