周年プロジェクトの真意とは?
配信日:2018年09月19日
創立何周年を記念してブランド・プロジェクトを行うことがあります。その時は主にコーポレイト・ブランドの見直しです。これまで私も数回、そのようなプロジェクトに参画しました。それらは広告代理店さんからの依頼で、私のほうでクライアントさんの現場に降りていき、プログラム作りと実行委員のまとめ、ファシリテーションをするという建付でした。
ところで周年プロジェクトで会社ブランドを見直すのはなぜか、ご存知ですか?一言でいうと、周年プロジェクトは社内の注目度が高く「変革」や「改革」を行う絶好のチャンスだからです。日頃、経営者がどれだけ「新しいことに取り組もう」と言ってもなかなかピンっと来てもらえないことも、この時は高い注目度で取り組んでくれるのです。よって、この機に経営ビジョンの見直しや、それに続いて企業名やコーポレイト・ロゴの一新だとか、やるわけです。
単なる会社ブランドを超えて、「組織風土の変革」にも周年は効きます。本当はこちらこそ周年の本望です。同じ理由で問題のある風土や組織文化を一新していく絶好の場だし、変革という痛みを伴うイメージのある概念を、ややお祭り的な楽しさを纏いながら進めていくチャンスなのです。そのためには、いまの組織風土の問題点を明確にして「このような風土に変えていきたい」という方向性・ビジョンをもって取り組まなければなりません。このビジョンづくりですら、周年プロジェクトの一環として、実行委員や全社員に議論させることも出来ます。経営者が考える方向性を下敷きに、将来を担う若手の考えを取り込むチャンスです。
ところで、組織風土を変革するテクニックは「環境」を変えてやるのが一番です。これが周年プロジェクトのプログラムになります。例えば、内向きで保守的な風土を外向きで未来志向、自由で積極的なものに変えていきたいなら、オフィス環境をがらりと変えてやる。研究所や工場の制服やユニフォームのデザインを一新する。営業部やスタッフにビジネスカジュアルを認めるなど。さらに人事制度や評価制度を変えるのもタイミングとして良いでしょう。
私がチョコレートの会社にいた頃、高コスト体質の組織風土の変革を目的に、固定の個人机を止めてフリーアドレスのシェア・デスクにしたことがありました。2000年代初頭の当時、フリーアドレスはそれほど一般的ではなく、社員は「うちは机をシェアしなければならないほど大変なのか」と解釈しました。どれほどコスト削減を声高に叫んでも「また何か煩いことを言っている」程度だったのに、実際に自分のデスクがなくなると状況は一変しました。効果は絶大でした。それだけでなく、デスクに書類を積むことがなくなり、オフィスがきれいになりました。同じように私たちマネージャーを取り囲んでいたパーテーション、これもなくしました。結果、情報共有や流通が良くなりました。なにより「こんどの部長はいつもドアをオープンにしておいてくれる」と私のことを見てくれるようになりました。つまり、環境を変えると意識が変わり、意識が変わると行動が変わり、行動が変わると価値観が変わるのです。
私の感覚では、周年プロジェクトとは社外に発信するように見えて、実は社内向けのメッセージのほうが大事です。社外は周年でロゴがどうなろうとあまり関心を持たない。一方、社内はこれをきっかけに将来を真剣に考えるし、なによりも周年プロジェクトそのものが結構な仕事量なので、言ってみれば変革プロジェクトにどっぷり漬かるようなものです。よって周年の実行委員には、会社の行く末を自分ごと化できる若手、または自分で会社の未来を作っていくのだという気概のある者を選ぶことが大事です。そのためには公募制をベースにするのが良いでしょう。よくないのはごく一部の密室主義の実行委員が粛々と進めることです。そのようなやり方は、十数年や、ひょっとすると数十年に一回の変革チャンスを、むざむざ台無しにしてしまうようなものです。