田舎街がインバウンド需要を取り込む戦略

先日、出張のおり、機内誌で南イタリアのアルベルゴ・ディフーゾという「村全体がホテル」になっている村の記事を読みました。特に産業があるわけでもない寒村の活性化策です。そこでは村全体が「管理されたAirbnb（民泊）」になっていて、世界中から旅行者が集まります。目的は「観光客向けではない生の南イタリア生活を実体験すること」。いかにも魅力的だと思いませんか？滞在者はどこかの家にホームスティし、その住人と一緒に美味しい食事やワインを楽しみ、イタリア人らしい生活の息遣いを感じるのです。

日本はいまインバウンド需要が凄くて、外国人観光客が年々増加しているのはご存知のとおり。しかも東京や大阪、京都などに限らず、訪問エリアも拡大しているようですね。しかし一方で「インバウンドなどどこ吹く風」とでもいうような、まったく相手にされない地域があるのも事実。先程の「村全体がホテル」の話はそうした状況にありながら、外国人観光客にとって自分たちの強み・魅力を見抜き「製品化」した好事例だと思います。

日本のそうした地域、例えば、僕の生まれ故郷もそうですが、伝統産業があるのにそのコンテンツ化が足りてなくてダメというケースは多いのではないでしょうか。僕の生まれ育った街は岐阜県多治見市というところでして、ここは美濃焼の一大産地です（でした）。実は僕の実家も窯焼きの家で、祖父が生きていた頃は家に祖父用の窯もあったほどです。しかしやがて僕の街は中国の安い陶器製品に輸出分野で負けていき、街全体の景気も悪くなり、廃業する窯元も多く出るようになりました。人口も減り、いまでは昔の活気などありません。

そういう状況でも街の歴史や窯元の魅力はあり、外国人のみならず日本人にだって「土を触ってみたい」「本物に触れたい」「芸術作品として陶器をコレクションしたい」というニーズはあります。これがインバウンド、それも欧米系の観光客がこのような小さな街にまで足を運ぶ理由です。残念なのはそのようなニーズがあっても、僕の生まれ故郷はそれを充分に満たすだけの状況にないことです。言葉を変えると、イタリアの村のような「製品化」が出来ていないことで、要するに「製品が売れるレベルになっていない」となります。

瀬戸内に直島（なおしま）という離島があります。決して宣伝ではないのですが、この島は面白い。街そのものは村というより里といったほうがぴったりの島なのですが、島全体が「アート」というコンセプトで括られて、かつ滞在を充分に楽しめるよう「製品化」されています。アートの島として、昔からの土倉や民家もアートらしく整理されていますし、草間彌生さんをはじめ、世界中のアーティストが島のいたるところに作品を展示しています。そして極めつけはベネッセが運営する様々な施設。ベネッセハウスパーク、ベネッセハウスミュージアム、地中美術館、リーウーファン美術館、家プロジェクトなど、小さな離島がみごとに製品化されています。これも地域活性化の好事例で、やはりアート好きな外国人観光客が押し寄せています。

もし自分たちの街にインバウンド需要を取り込みたいなら、その良さを見直す、その魅力を外の目から理解すること。そして製品として「売れるレベル」までパッケージ化することが最初のステップでしょう。これができれば観光客は口コミをしてくれる可能性も高まる。「是非、君もあの街で歴史と本物に触れるべきだ」と言ってくれる。逆にこれをやらずに集客してもお客さんはそもそも魅力を感じないのです。どんなことでもそうですが、売れる製品を作ることを忘れたら、それをプロモーションや営業力で補うのは難しいのです。