自分らしさを知る方法
配信日:2019年7月10日
パーソナル・ブランディングで一番大事なことは何か?と聞かれたら、僕は何よりも先に「自分の欲求を知ること」と答えます。つまり「自分はこのようになりたい」という憧れや羨望を自覚することです。
マーケティングでは顧客の欲求を知る重要性を説きますから、パーソナル・ブランディングも顧客となるひとたちのニーズを知り、満たすことを考えますが、その前に「自分の欲求を知る」ことのほうがもっと重要だと思います。なぜならこれがあれば情熱を持って持続的に取り組むことが出来る。言ってみれば、自分の欲求とはクルマでいうところの燃料のような存在です。
たいていは「憧れの誰か」がいて、将来、あんなひとになりたいと思うところから自分の欲求に気づき始めるのではないでしょうか。例えば会社のデキる上司や先輩、例えば有名なビジネスマンや成功者。僕の場合は高校生の時に読んだ「アメリカン・ビジネススクール決算記」という本の著者(山田修さん)でした。たまたま友人に勧められて読んだ本だったのです。しかしこの一冊が僕のキャリア人生を決定づけました。その本でマーケティングという仕事を知り、マーケターという生き方を知り、転職しながらキャリアを主体的に描く面白さやダイナミズムを知りました。以来、30年以上の時間が過ぎましたが、まるでカルガモの子供が最初に見たものを親だと勘違いして、ずっと後ろを追うように「そのような生き方」をしてきました。
ちなみに本を紹介してくれた友人は、その後、アメリカのビジネススクールに行き、マーケティングではなくファイナンスを学び、日本に帰国後は学者の道に進みました。いまは慶応ビジネススクールの教授をしています。僕にとっては「マーケティング」がひっかかり、彼にとっては「ビジネススクール」がひっかかったわけです。同じ本を読んでも視点は様々です。
「憧れ」や「羨望」は具体的なカタチで自分の欲求を知らせてくれます。学校を卒業して最初に入った会社もよかったと思います。そこには、そのようなマーケターの先輩がたくさんいたから。新入社員だった僕は大阪支店営業一課に所属し、大阪市内の量販店や問屋をまわっていました。そして時々、本社のマーケティング部の先輩が新製品発売の案内などで大阪に来るとこころが躍ったものです。「いつか僕もあのように大阪に来て新製品キャンペーンの話をみんなにするんだ」と勝手な妄想をしたものです。そして数年後、僕は「そのとおりの僕」になっていました。
ここまで書いてきて思ったことがあります。「自分の欲求を知る」と書きましたが、本当は「自分の欲求を決める」が正しいかもしれません。僕にしても本との出会いがなければマーケティングなどという横文字の仕事を知る由もなかったし、就職先も変わっていたかもしれない。おそらく欲求を自覚するにはこのような啓発的経験が必要で、そのプロセスを通じて「よし、これが僕の目指すべき自分らしさだ」と決めるのでしょう。この「自分らしさ」こそが「なりたい自分」「自分の欲求」の正体です。そして自分らしさとは自分一人で考えて気づくものではなく、他者とのふれあいや本、仕事の経験などを通じて理解が進むものだと、あらためて思います。
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